第18話 逃走

 音が鳴った場所は僕たちが歩いていた道の3つほど隣の道路に面した公園だった。距離で言うと500メートルほど、時間で言うと7分ほどで僕たちのその場所についた。ついたと言うのは少し違うかもしれない。その公園が見える場所、道の脇から様子を見ることにした。

 みるとそこには男女4人組の集団がいた。見たところ僕たちと同じくらいの大学生だろうか。その公園は住宅地にある公園にしては面積の大きな公園だ。遊具も滑り台や鉄棒、よくわからないプラスチックで作られたオブジェまであり、小さな子供が遊ぶには十分すぎるほど取り揃えられている。その公園の中心で奴らは何をしていたのだろうか。先ほどの音の正体は何なのだろう。いまは普通に話しているようにしか見えない。

「誰かいるよな、あの連中がやったのか?」小吉が痺れを切らしたように声を漏らす。

「わからないけど、あの人たちがやったとしか考えられなくない?」瀬奈が続いて言葉を発す。

「でも、あんな近所迷惑なことをしそうな連中には見えないんだけど」

「何言ってんだよ大治、ここからじゃよくわからないし、見た目で判断するのは良くない。昨日見たニュースの窃盗犯もメガネをかけた黒髪短髪の真面目そうな中年のおっさんだったぞ」

 前半がそれだけ良い情報でも中年のおっさんと言われると一気にイメージがダウンするのが不思議だ。中年にはなりたくないと思った。

「でも、何もしてないうちは私たちも何もできないわよ」

「それもそうだな」

 そんな話をしていると連中の一人が突然奇声を上げて何かを振り下ろした。それと同時に先ほど聞いた「パァンッ」と言う破裂音と同じ音が辺りに響いた。先ほどより距離が近いため音は大きかったが、観察していたためそれほど驚きはしなかった。

「あれは、癇癪玉だな」小吉がぼそっと言う。

「癇癪玉?」瀬奈が間髪入れずに聞いてくる。

「あぁ、名前くらいは聞いたことがるだろ?花火の一種だよ。投げつけたり、踏んだり、衝撃を与えると大きな音を立てて弾けるんだ。俺も実際に音を聞いたのは初めてだけど、なるほど、うるさいな」小吉が無駄に雄弁に説明してくれた。

 僕もその音は初めて聞いたけど、正直これくらいならただの学生の盛り上がったお楽しみにしかみえなかったため、拍子抜けしていた。少し安心もした。ただ、近所迷惑なことに変わりはない。あれが続くようなら一応通報くらいしておくべきか。

「でもあれ、この時間にやるのは明らかに近所迷惑よね」瀬奈も同じことを思ったらしい。

「あぁ、そうだな。通報くらいしておくか」


 そう言いながら小吉が携帯を取り出した時にそれは起こった。

「誰かいるぞ!」公園の中央から一人の男の声が響いた。

 公園に目を戻すと連中が明らかにこちらに気付いて指を指している。

「何してんだよ!」携帯を持っている小吉に気づいたのか、少し語気の強い口調で叫んでくる。

 何も言えずに連中と対峙していると連中の一人がこちらに癇癪玉を放り投げてきた。僕たちの数メートル前で音を立てて弾けたそれに怯んだ僕たちは一目散に逃げ出した。


 気づいたら走り出していた僕らはいつの間にか大通りまで出ており、24時間営業しているため、まだ照明のついているスーパーの前でようやく走るのをやめ、歩き出した。


「はあ、はあ、別逃げ出すことなかったな、なんか負けたみたいで悔しい」小吉が息を切らしながら負け惜しんでいる。別に負けとかそう言う話ではないのだが。

「でも、勝手に走り出しちゃうよ、あれは」瀬奈も息を切らしながら言うがそれほど疲れている様子はない。意外と体力には自信があるのだろうか。

「でもあの4人、やっぱりなんか怪しくないかな、ただ遊んでただけなら僕たちを見てあんなに威嚇してこないんじゃないかな・・・」僕も普段は走ったりしないがこれくらいなら授業に遅れそうになったときに走っているため、それほど辛くもなく耐えた。それにしても、あんなに大きな音を目の前できていて、奴らは何が楽しいのだろうか。先ほどの大きな破裂音を思い出して、驚きを隠せないでいた。


「え、5人いなかった?」

「え?」瀬奈の言葉に僕は驚きを剥き出しにした。

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