第10話 出撃《ソーティ》

 それは、思いも寄らない出来事だった。


 あらかじめ伏せてあった多数の兵士達が『投網とあみ』を持って、波状攻撃を仕掛けてきたのだ。


 奴らは瞬時に、幾重いくえもの投網とあみで俺たちを簀巻すまきにした。 絡みつくあみの僅かな隙間からのぞくと、細河ほそがわと家老が、にんまりとわらっているようにえた。


 必死で藻掻もがくが、藻掻もがけば藻掻もがほど動けなくなる。


 家老が勝ち誇った声で……


「ふ、この投網とあみは特別あつらえでな、鍛鉄たんてつを細く引き伸ばした針金を編み込み、殿との御自おんみずから工夫なされた編み方でこしらえた『細兵さいびょう投網とあみ』じゃ。下手に動かぬほうが身の為ぞ。」


 はかったな!


「くっそぉ~! 俺は、怒ったぞぉ!」


 ……怒り心頭で、気の利いたセリフが思い浮かばない。


 俺と背中合わせに、一緒に巻き込まれたユイが、冷静な声で


「これは、明らかな協定違反だ。…『同盟破棄』と見做みなして良いのだな?」


 細河ほそがわが「……其方そちらはいまだに時世じせいはんじてらぬようだな。 ……今は『永禄えいろく』の世ぞ。 約定やくじょうなど、片腹痛い!」……と、吐き捨てるように言った。


 ……俺の背中に、震えが伝わって来た。それと同時に『ギリッ、ギリッ』という妙な音がした。


 ……歯ぎしりだ! ユイの怒りは頂点に達しているようだ!


「……おい……貴様」……ユイが、怒りを必死でこらえながらつぶやいた。


「……?」 


「情報参謀に……『フォーメーション “コード・蜘蛛の子B・S”、出撃ソーティ』と、命じよ」……と言った。


 ユイの怒りが俺にも伝播でんぱした。


 力強く頷き……と言っても、投網でグルグル巻になっていて首は動かせなかったが……


「情報参謀!」


「は、は〜い」


 ……え? 声ちかっ。


 なんてこった! ……あのバカ、一緒に捕まってたのか!


 俺は、全ての怒りを、この一言ひとことに込めて


「フォーメーション “コード・BS”、出撃ソーティーッ!!」


 と叫んだ!


御意ロジャー


 そうだ! ……今こそ、我が衛鬼兵団えいきへいだんの真のちからを解き放ち、裏切り者の細河に、目に物を見せてやれ!

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