第11話 切実

「……さて、我が衛鬼兵団えいきへいだんの威容を知り得たであろう。 改めて問う。 何か願望はあるか?」


 俺は少し考えて……


 「……今、切実な願望は、『ちゃんと服を着ろ』……って事だよ。 そんな格好かっこうで動き回られたら気が散って仕方ない!」 と言った。


 裸にYシャツのみ……なんて新婚夫婦じゃ無いんだから、ほんとマジでお願いしたい。


 ユイは、目を丸くして俺を見ていたが、一呼吸おいて…… 可愛らしい声で笑い出した。


 あまりにも楽しそうにコロコロと笑うので、何だかこっちもられて笑ってしまった。


 「心得た。」


 ……笑い終えたユイが真顔になり、真剣な眼差しを俺に向けた。


 ……俺が息を呑んで固まっていると、ユイはにじり、俺のデリケートな対人距離パーソナル・スペースを踏み越えて急接近して来た! そして、俺の両腕を掴み


「動くでない!」


ささやいて……顔を近付ける……。


 な、なに? やだぁ! キ、キス? はじめてのチュウ?


 ユイが俺の胸に貼り付いている『司令徽章』に何かをつぶやくと同時に、まばゆい光が目の前に広がった。


 くらんでいた視界が戻ると…… ユイが、さっき衣料品店で店員さんが見立ててくれた初夏のよそおいを着こなしていた。 


 正確に言えば、服を数万枚のパーツに分割して、ユイの身体に合わせて再構成したのだという。


 ……ざっくりした薄緑色のブルゾンと亜麻色のパンツ。 加えてベージュのベレー帽。 ゆるふわ感あふれるコーデだ。 初めて会った時より、遥かに大人びて見える。 


 店員さんの見立ても凄いが、それを美事みごとに着こなす『ユイ』という『素材』も素晴らしい。


俺は、もう一度、息を呑んだ。




「これなら、如何いかに?」……と言って、俺の前でクルリと回り、ポーズを決めた。 


 完璧かんっぺきだ。 完璧な美少女だ。


 ……口調さえ普通であれば……。

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