一対のコップの奇跡~コップでつながる異世界交流。コップは最強無敵の力を与える~
喰寝丸太
第1話 一輪の花
Side:がんちゃん
俺はもう駄目かも知れない。
所持金わずか329円。
今いるのはネットカフェ。
翌日には出て行かなければいけない。
中年の派遣社員の末路なんてこんなものか。
俺って勉強は苦手だし、要領も良くない。
資格を取ろうと頑張ったけど、無理だった。
どの資格も難し過ぎる。
買って来たパンの耳をコーヒーに浸して食事にする。
ネットカフェの良い点はコーヒーは飲み放題ってところだ。
しかし、最後の晩餐がパンの耳コーヒーとは情けない。
やり直せって声が聞こえてきそうだが、俺はもう疲れた。
一生懸命に働いたけど貯金はろくに出来なかった。
正社員でないからすぐに首になる。
首になればお金は入って来ない。
求職中にアルバイトはしたけど食って行くのがやっと。
それに30歳を過ぎると雇ってくれる所が減る。
まだまだ俺は働けるのに雇ってもらえない。
パンの耳が尽きたので、コーヒーを飲んだ。
俺は自分の最後を考え始めた。
ホームレスになって死ぬのは嫌だ。
自殺も嫌だ。
そうだ、人助けをして死のう。
こんなのはどうだ。
カツアゲされる気の弱そうな学生。
脅しているのはヤンキーの兄ちゃん。
颯爽と現れる俺。
ボコボコになっても学生を逃がす俺。
逆上してナイフを出すヤンキー。
煽りまくる俺。
ナイフに刺されてジエンドだ。
「お母さんが死んじゃう」
何ですと。
どこから聞こえたんだ。
目の前のパソコンからか。
耳を澄ます。
「死なないでお母さん」
紙コップから声が聞こえてきた様に思える。
幽霊か。
別に良いか、祟られても。
それとも俺がおかしくなったか。
まあ良い、どうせもう終わった人生だ。
俺は紙コップに向かって挨拶を始める。
「俺は岩本。君は誰だい?」
「クロエ。ええっとイワモゥトーさん」
返答があった外人のようだ。
声は幼い女の子だと思う。
「呼びづらいなら、がんちゃんで良い。親しい人間はそう呼ぶ」
「がんちゃんは神様ですか?」
「いいや、今日から死んでも絶対に人を助けるマンだ」
「お母さんを助けて」
幽霊にしては手が込んでるな。
お前の命が欲しいと言われて構わない。
もう終わった人生だ。
「何をして欲しい」
「お母さんの病気を治して」
「どういう病気だ?」
「まりょくけっそんしょう」
ええと聞いた事の無い病気だな。
「もっと詳しく」
「魔力が無くなっちゃう病気なの」
ほう、魔力か。
パソコンのキーボードで魔力欠損症を入力する。
いくつかのファンタジー小説が検索に掛かる。
なるほどありがちな設定なのか。
いくつか読んでみると魔力をなんらかの手段で充填すれば解決するらしい。
小説によってその解決方法は様々だ。
マナポーションを飲ますとか。
手を握って魔力を渡すとか。
どれも俺には出来そうにない。
クロエが俺をからかっているとしても、一時の遊び相手ぐらいにはなれるだろう。
その結果、とり殺されても良い。
魔力がある物を飲ませるという答えは出たが、遊びでも何とかしてやりたい。
ネットで検索を掛ける。
魔力がこもった物を作る方法は載っていたが、胡散臭い。
ある方角を向いて全裸で祈れとかなんのこっちゃ。
俺には無理だ。
検索する事10分。
ある伝説が載っていた。
あるお坊さんがコーヒーを飲んだところ疲れが消えたので、病人に飲ませたら治ったという事だ
これだ
俺は紙コップにコーヒーを淹れた。
届けと念じる。
紙コップが空になった。
「クロエちゃん、その飲み物をお母さんに飲ませてごらん」
「うん」
それからしばらくして。
「お母さん治ったよ。がんちゃんありがとう」
いよいよ、魂を取られて死ぬのか。
目をつぶって、数分。
再び目を開いた時には紙コップに花が一輪入っていた。
花は七色の花びらを持っている。
ド派手だな。
これはどう考えたら良いのだろう。
幽霊が遊び付き合ってくれてありがとうとでも言うのか。
まあ良い。
死にぞこなってもどん底には変わらない。
今日はネットでこの花の名前を探そうと思う。
それから俺はネットで花の名前を探した。
似たような花は無い。
七色が同時にあるなんて花が、ある訳ない。
きっと着色したんだろう。
そう結論が出た時には夜は明けていた。
ネットカフェを出て、公園に足が向いた。
この花をゴミ箱に捨てるのは忍びないと思ったからだ。
公園の地面に花を植える。
すると、みるみるうちに花は枯れ、実が付いた。
さすが、幽霊の花。
不思議な事が起こる。
でも何故か俺は花の種を植えないといけないような気がした。
農家のアルバイトして、花の種を空いている土地に蒔かさせてもらうか。
よし、この花の御花畑を作るんだ。
最初は鉢植えで良い
俺は生きる目的が出来た
そうだ、この種以外は要らない、ゼロからの出発にしよう。
329円を紙コップに入れた。
受け取ってくれと念じて。
金は消えた。
これで良い。
俺は何だかすっかりやる気を取り戻していた。
そして、農家でアルバイトをしているうちに花が咲いた。
七色の花だった。
俺はこの花にエンジェルクロエと名付けた。
Side:クロエ
私はクロエ5歳。
家族はお母さんが一人だけ。
「クロエ、ごめんなさい」
寝台に横たわるお母さんの顔は青い。
息も荒くて。
どうなってしまうの。
「お母さん死なないで」
「そうね、クロエの為にも頑張って生きないとね。水が飲みたいわ汲んできてくれる」
「うん」
私は水瓶を覗き込んだ。
水が無い。
小さい私は井戸から水を汲む事は出来ない。
でも、頑張らないと。
木のコップを一つ持って井戸に走る。
井戸に行き桶に結んであるロープを引っ張った。
重くて上がらない。
水を早く運んであげないと。
「お母さんが死んじゃう」
ロープに力を込めるが一向に上がらない。
「死なないでお母さん」
「俺は岩本。君は誰だい?」
どこからか大人の声が聞こえる
不思議な名前の人だ。
上手く言える自信がない。
「クロエ。ええっとイワモゥトーさん」
やっぱり上手く言えなかった。
「呼びづらいなら、がんちゃんで良い。親しい人間はそう呼ぶ」
がんちゃんの本当の名前は上手く言えない。
きっと神様だ。
「がんちゃんは神様ですか?」
「いいや、今日から死んでも絶対に人を助けるマンだ」
助けてくれるの。
ボロボロと涙がこぼれた。
「お母さんを助けて」
「何をして欲しい」
「お母さんの病気を治して」
今、一番やって欲しい願いを言った。
「どういう病気だ?」
「まりょくけっそんしょう」
お医者さんがそう言っていた。
「もっと詳しく」
「魔力が無くなっちゃう病気なの」
しばらくして木のコップが泥水みたいな物で満たされた。
匂いを嗅ぐととっても良い匂い。
香ばしい甘い匂いだ。
「クロエちゃん、その飲み物をお母さんに飲ませてごらん」
「うん」
一口コップの薬を飲む。
甘くて美味しい。
体に力が入った感じ。
水の代わりに薬を持って行ってもいいよね。
お母さんにコップを差し出すと。
お母さんは一瞬怪訝な表情になる。
「水が汲めなかったの。良い匂いだし、美味しいよ」
「ありがとう」
お母さんは薬を飲んだ。
顔が赤くなったみたい。
「力が戻っているわ」
お母さんは手を握ったり開いたりしている。
そして、寝台から起き上がった。
「駄目だよ。寝てないと」
「良いのよ。すっかり治ったから」
お母さんは私の頭を撫でて抱きしめた。
「お母さん治ったよ。がんちゃんありがとう」
コップに向かってお礼した。
「クロエどうしたの」
「薬のお礼。そうだ花を送ってあげましょ」
私は花瓶から花を一本抜きとるとコップに入れた。
花が消えた。
お母さんと一緒に寝て起きるとコップに見慣れない硬貨が入っていた。
「お母さん」
食事の支度をしているお母さんに駆け寄る。
「みてみて」
「なあに」
私は手を開いて硬貨をお母さんに見せた。
「これは凄い魔力がこもった品ね。この軽い金属はミスリルかしら。見た事がないわ。これどうしたの」
「がんちゃんがくれたの。がんちゃんはきっと神様」
「かも知れないわね。これはありがたく頂きましょう。これを売れば魔力欠損症の薬も手に入るはずだわ」
「治ってないの」
「いいえ、念の為よ。心配しないで」
がんちゃんは今頃何をしているかな。
きっと下界を見て笑っている私を見守ってくれているはずよ。
――――――――――――――
あとがき
書いている連載が行き詰ったので、気分転換に書きました。
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