裂果
杜松の実
裂果の如く
二人の男はその美しき声々に
少年が
両者声を発さぬ
「河田さん、はどうして僕なんかに優しくしてくれるのですか」
「なんか」
男は
「すみません」
陽は陰る。
男が振り向く。全く日常使いの立ち居振る舞いに、能に
「ごめん。少し考えていたので。初めは、優しさなどでは無く当たり前の事をしているだけだと答えようとしましたが、
……僕も人を傷付けた事があります。君と違うのは、僕は人を傷付ける事を楽しんでいました。すみません。驚いたでしょう。僕を最悪から引き
君は僕とは違います。君は人を傷付けながら自分の事も傷付けているでしょう? 不安で怖くて落ち着かなくて、それ以外の遣り方が分からなくて人を傷付けている。僕にはそう見えました。気付いたからには、どうにかしたいと思うんだよ」
男は暗い中で固まっているにも
「おや、今夜は月が綺麗ですね。どうぞご覧なさい」
と電灯を点け手招きをするも、
「うん。良さそうだ。これで切れると思うよ」
呼び戻されて少年は包丁を受け取りトマトに当てる。切り口は理想的な平面となり、どの
「おいしい?」
「うん」
「カレーにトマト入れると美味しいからね。お母さん、喜んでくれるといいな」
「うん」
少年はトマトを乱切りにしようと手を動かす。男がくつくつと沸く鍋を
「河田さん、ありがとう」
二人の気付かぬ内に明治が終わった。どうやら明日は令和らしい。
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