第二話

 山口は俺の気持ちを知っていると思うんだけど、いつも興味のないふりをしている。実際に俺には興味が無いという事は感じているのだけれど、それを認めてしまったら今まで行ってきた努力は全部意味が無かったことになっちゃうんじゃないかなって思う。それはとても怖い事だし、小学生の時にやった野球も中学生の時にやったバスケも高校生になってからやった演劇も全部山口の気まぐれに振り回されているだけなんだよな。俺自身もそれは理解しているんだけど、もしかしたら好きになってもらえるんじゃないかって思うとやめられないんだよな。

 頼之も朋英も俺が山口の事が好きだって気付いていないと思うんだけど、最近は俺と山口が話しているところに割り込んでこなくなってるんだよな。もしかしたら気付かれているのかもしれないけど、あんまり深く考えないようにしよう。俺って意外とマイナス思考なところがあるからあんまり思いつめない方がいいんだよね。


 なんで俺が山口を好きになったんだろうって考えているんだけど、その理由がいまいち思い出すことが出来ないんだ。初めて会ったのは物心がつく前だったと思うんだけど、思えばその時から山口の事が好きだったのかもしれないな。小さいときはお互いに名前で呼び合っていたんだけど、小学生になってからはどちらともなく苗字で呼び合うようになっちゃったんだったな。昔に戻れるならその頃に戻って名前呼びを続けさせてみたいって思うんだけど、山口から名字で呼ばれたら俺は名前で呼べないんじゃないかなって思っちゃうし、愛莉なんて今更呼ぶことが出来るわけないんだよな。


「俺の良そうなんだけどさ、信寛ってあのアプリにクラスの適当な女子の名前とか入れても両想いになりそうじゃね」

「ああ、それはわかるわ。演劇部の看板役者で知らない後輩からファンレター貰うくらいモテてるもんな。でもさ、信寛って山口以外の女子と話しているところってあんまり見ないよな。やっぱ、幼馴染って話しやすいもんなの?」

「どうだろうね。俺はあんまり女子と話すようなタイプじゃないってのもあるんだけど、山口は家も隣同士だし物心つく前から一緒にいたから家族みたいな感じかもしれないな」

「まじかよ。俺もそんな幼馴染がいれば良かったのにな。欲は言わないけど泉ちゃんが幼馴染だったら俺はもう空を飛べるくらい舞い上がってそうだよ」

「朋英って一年の頃から宮崎の事が好きだって言ってたもんな。ダメだってわかってるから告白とかしない訳?」

「おいおいおい、俺が告白できない軟弱な男だと思うなよ。お前らが気付いていないだけで俺は何回も告白しようとしていたんだぜ」

「告白しようとしてたって事は、告白できてないってことじゃん。やっぱり振られるのが確定しているから告白できないんだろ」

「違うって、俺が泉ちゃんに告白しようとしたら必ず誰かが傍にいるんだよ。二人っきりになろうと頑張ってみたけれど、なぜかそんなチャンスは無かったんだよね。俺が近付くと若林とか河野とかその辺が急に割り込んできたりしてさ、俺ってつくづくそう言う運に恵まれてないんだなって思うよ」

「へえ、俺は時々宮崎と二人で話すことあるけど、そのタイミングで朋英を呼んでやればよかったな」

「マジかよ。そんな機会があったら俺の事をすぐに呼んでくれよ。家でゲームやってる途中でも急いで駆けつけるからさ。ホント期待しているからな。俺の恋愛が成就するかは信寛にかかっていると言っても過言ではないからな」

「お前の恋愛アプリの結果を見る限りでは片思いで終わりそうだけどな」

「それは言うなって。俺だってこの現実から目を逸らしたいんだけど、いつか泉ちゃんの気が変わって俺と両想いにならないかなって思ってるんだからさ」

「あ、その気持ちって俺もわかるよ。いつか気が変わってくれたらいいよな」

「なになに、信寛って誰か好きなやついたのかよ。お前ってそう言う話しないから女に興味無いのかと思ってたよ。一部の後輩は本当に女に興味無いって思っているっぽいけどな」

「で、信寛の好きなやつって誰なんだよ」

「馬鹿野郎。そんな事言うわけないだろ」


 俺はこの二人に山口の事が好きだってバレたくないわけではないのだが、視線を山口から逸らしてしまった。この流れで山口の事を見つめていたら、俺が山口の事を好きだって白状しているような者だからな。

 ただ、俺が山口から逸らした視線の先にいた宮崎とばっちり目が合ってしまった。お互いに会釈をしてやり過ごしたのだけれど、朋英がそれを目ざとく見つけて俺に文句を言ってきた。

 宮崎は確かに可愛いと思うし愛嬌もあるんだけど、俺は何となく生理的に合わないような気がしていた。宮崎は誰とでも仲良くなれるような人だと思うのだけれど、中学の時に同じクラスだった山口とだけは仲良くしてなかったのが気になっていた。俺が山口の事を好きだからそう思ったんではなく、山口が宮崎と話しているところを見たことが無かったし、行事のたびに山口がクラスの中で浮いた存在になっていたのも宮崎が何かしていたからじゃないかと思っている。いや、逆に宮崎が何もしないから山口が浮いていただけかもしれない。俺達が中学二年生の時に先輩からいじめられていた後輩を助けて、最終的には先輩がいじめていた後輩に謝罪をするまでになっていたことがあったのだ。全く関りのない後輩と先輩の仲を取り持つような宮崎なのにクラスで浮いている山口には何もしなかったというのは俺の心の中に大きな疑念を抱く出来事であった。それゆえに、俺は宮崎の事を手放しで信じることが出来ないのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る