第2話
あぁ、カコとのデート楽しかった♪
プリクラ久しぶりに撮っちゃった、さて、今日もお仕事、お仕事。
朝一番で、「あ、そうだ、こないだ残業きつかったでしょう?
でね、今日は半休にしようと思うんだ、給料には響かないから安心して(笑)」
と、社長から社内一斉にチャットツールで文が飛んできた。
「僕も休んでゲームするからそうして、今日は早く帰ってね、じゃね」
スケジュールに余裕がある時、社長はこんなことを言う。
そして実際に率先して帰るので、みんな帰るし、それは給料には響かない。
「ワークライフバランス?わかんない、仕事ないから帰って」
だそうだ。
抵抗があるとの声もある、でも、とくに急ぎの仕事がないのに残業代のためだけに居るということはここではほとんどない。みんな帰りたい。
あまりにも合理主義。
ともかく、そんなわけで、今日私に振られた仕事もいつものおよそ半分、次プロジェクトの資料に目を通して、上流が骨組み作ったから、社内で雛形共有して簡単にテストして(遊んでるだけともいう)あとUIとかデザイナーの仕事を待たなきゃだけなぁとか考えながら細かいとこ直してたらもう半日終わり、いいなぁこんな日。
でだ、帰ろうとすると
「昨日楽しかったね、ね、今日はこれからどうするの?」
カコが華やかな笑顔で話しかけてきた。
「映画に行こうかなって」
昨日カコとモールに行ったとき、結構面白そうなのやってたし、今日レデイースディだし、たまにはのんびりしよう。
「あ、いいね、レデイースディだし、一緒に行こうか?」
カコ!ぐいぐい来るなぁ。
「あ、でも……」
私は今日行こうと思ってた映画のタイトルを思い出してちょっと赤面する。
「こら、抜け駆けするな」
カコは頭を軽く丸めた雑誌で叩かれた、伊馬くん、聞いていたんだ。
「伊馬くん!暴力減点1!!」
カコはぶうぶう猛抗議するけど、伊馬くんは冷静に仕事用の眼鏡を外しながら呟く。
「触っただけだろ」
「未来!DV男なんてだめだよだめ!」
あぁ、もう、この二人がこう、すぐ喧嘩するのやだな、争いのもとである私はどうしたらいいのかなぁ、はぁ。
「それはそうと、映画のことなら僕を置いて話しをするのはあまり得策じゃない」
伊馬くんはスマホの画面をみんなに見せる。
「ほら」
『伊馬のシネマウォッチチャンネル』
「「Youtube!!」」
そこでは伊馬くんが、これまで見た映画、古いのも新しいのも海外のも日本のもジャンルも色々……いろいろな映画を見た感想を話してた、顔だしはしてないけど、てか登録者数、多っ!!うわあ立派なYoutuberだ、なんかイケメンのアバターで、声は伊馬くん。すごい……。
「伊馬くんこういうのやらないと思ってた」
カコが言うのもわかる
「そうか?でも、ブログの時代でもないし、どんどん新しいものにチャレンジしないと置いていかれるし、それにここ、副業OKだろ?」
淡々というねぇ……。
「そもそもカコ君、あまり話したことないと思ってたが……僕の何を知っていると思う?」
「あー、えーっと……」
うーん、でもこれはそこそこ親しい私も知らなったよ……。
「ま、でも伊馬くん、これイメージどうこうじゃなく知らなかったって話しだから」
私は二人を取り持つ。
「で、どんなのを見るんだ?監督くくり?演者?話題性のあるものもそうでないものも、単館上映から興行収入何億の作品、一部のぞきほとんど見ている、僕となら、どんな映画も退屈させないよ」
「プロじゃんプロ!どうしようすごいライバル」
カコが地団太を踏む。
あー、ちょっとだけ厄介な感じ。
……うん?一部?
「ねぇ、その一部って何?」
私は素朴な疑問を投げる。
「法映の特撮とか変身ものかな、キッズアニメとかもそうだ、さすがに恥ずかしいというか……メタルヒーローとか、ぴちきゅあだっけ?美少女が変身?中学生じゃないか。」
「あ」
無理だ。ごめんね伊馬くん。
「あの、言いたくないけど、私その法映特撮のメタルヒーローまさしく見に行こうって思ってて……」
私は小さく手を挙げながらひきつった笑顔を見せて、伊馬君は
「何?」
と真面目な顔をした。
「あ、ぴちきゅあ好きだった、見たいな」
カコは屈託なく笑った。
じゃ、みんなでプレゼン合戦だ、伊馬君はプロだから、ちょっとだけ減点させてね。
私たちは会社の近くのドーナツ屋さんにGO!
カコはイチゴドーナッツ一個、伊馬くんは限定の3つたのんで二つつつんでもらってる、甘党だもんねー。
さて、三人でテーブルを囲んで、いかに自分の見たい映画がいいかプレゼンしあって、で、いちばん評判いい人が好きな人と映画に行く権利を、え、私だったら選ばなきゃだめ?
さて、トップバッターはカコ!
「じゃあ、私から、私はぴちきゅあもいいけど、ここは『炎の女たち』を推したいかな」
「あ、それ、映画通の中でも好評の……」
私は伊馬くんにカコの番だから、と咎める。
「女性作家の本が原作、女性同士恋愛を軸に、女性特有の生きにくさ、女性特有の問題、惹かれあう女性と女性の出会いと別れを描きながらもどこか光が見える丁寧な映画は、女性監督ならでは!私一回見たけど、未来とも一緒に見たいな、絶対、わかると思うから」
へぇ、カコって、けっこう熱っぽく語るんだ。
「その作家なら……」
「伊馬くん!私の番!」
カコは伊馬君を黙らせた、こういうときのカコは気が強い。
「でね、ヒロインが女性の恋人と惹かれあう場面がね、最高にいいの!
性別関わらずに好きな人がいるならわかると思う、女同士ならなおさら、こうね、あぁ、ネタばれになっちゃうかな。とにかくね、エモいの。
一度は主婦になったヒロインがかつての女上司に再会して惹かれあう、そのメモを見る目が、振り返ったときヒロインと上司の視線の絡み合うとことか、こう、ペンダントみせてって、触れそうで触れないとことかが、いいの」
カコは熱っぽい語りを少し落ち着かせる
「女の生きにくさ……?」
伊馬くんはなにか納得いかなそうだ。
「それ!ふつうに生きてるだけなのに、勝手にジャッジされるとことか、夫の付属品扱いされたり!あと、出産とか介護とか女性の社会進出とか……結構社会派でね、ぎゅっと詰まっててね」
伊馬君は腕を組んだ
「僕も見たけど、女性だけの問題とも限らないんではないかと……」
伊馬君は冷静に告げた。
「そう?『仕方ない』とかいいながら女の足踏みつぶしてるんじゃないの?
男なんて!」
カコはぷい、っと視線を外す。
「とにかくロマンチック!さぁ!炎の恋を見よう!」
ぱちぱちぱち、カコのプレゼン、終わり。
「じゃあ私ね」
私は立ち上がる。なんか文学的なカコの後だとハズイなぁ。
「私は今日、劇場版メタルライダーNIJI『the rainbow』が見たいの」
気まずい、伊馬君が体勢変えた、すごく引いてるのがわかる。
「……メタルライダーって日曜朝の?子供がみるようなあれ?」
あぁ、オタクうざいって言わないで、
「今作はね、主人公が色々なメタルライダーと会う筋だから、よく『イケメンコレクション』みたいに言われちゃうんだけど、私はあの一部でダサいって言われてるスーツ姿が好きで、もちろん、役者さんも好きだよ!
あ、でも、今回の映画は、PV見た限りだと、ストーリーはそんなに知らなくていい。」
「メタルライダーで一時間……」
伊馬君はやっぱり引いてる、私は苦笑いする。
「90分はあるよ、結構、最近は人間ドラマとかも濃厚でね」
「そんなの、悪い奴見つけて早く必殺技かけちゃえばいいんじゃないか」
伊馬君、夢ないなぁ。
「とにかく聞いて、伊馬君は子供のころ見たのしか知らないかもだけど、最近のもかっこいいから」
「見てなかった」
あぁ!かみ合わない会話!
「じゃあ見て!今度の映画はね、まず虹っていうのが今作メタルライダーのキーワードで、主人公は虹それぞれの力で戦うんだけど、最近ついに全部の力を集めたの姿がね、伝説の勇者そのものなんだって、ともかく、結構、その主人公がね、元気で、明るくて、ちょっとバカで、いいの」
ほら、私はスマホで写真をみんなに見せる、かわいい系のイケメンが写っている。
「中の人のファンなのか?」
「未来ちゃん、そういうのが好みなの?」
私は慌てる。
「え!そ、そうじゃなくて、弟に欲しいっていうか……。でね、よく食べてよく寝て難しいことが苦手で、誰とでも友達になれる主人公が、赤、橙、黄色、緑、水色、青、紫それぞれの惑星に行って仲間から譲り受けた力がクラヤミの世界に誘われる、暗闇では虹は出ない、そこからこう、クラヤミ国の王子との敵対と友情、そして手に入れた力とは……。
子供向けって思うかもしれない、でもメタルライダーにはずっと続けてきた番組としての歴史があるから!昔からのファンにも嬉しいサービスもあったり、なんかね、お決まりの展開もほっとするの、メタルライダーはこうじゃなくちゃって!
あぁもう、話してたら行きたくなった!」
私はスマホで公式サイトを見ながら震える
「えっと……好きなものがある未来ちゃんは羨ましいな……うん」
「メタルライダーで90分……」
熱く語る私に、みんなで引いてる、あーあ、なんか、反応いまいちかも。
「じゃ、私は終わり、最後は伊馬くんね」
私はそそくさとプレゼンを終える。
「では僕か、そうだな、まずは古典の『イン・アメリカ』を」
「まず?」
伊馬君はその声を聞かず古そうな映画のファンサイトをスマホで見せた。
「これは俳優が……で、脚本が……。この二人はゴールデンコンビとよく言われ、ほかにも色々な映画を……。ある日主人公の友人であるトムの彼女が何者かに殺される、復讐を誓うトムは主人公に共犯を持ちかける、彼女を殺したのは麻薬も取り扱うマフィアの一員だった。彼女は麻薬関係者ではない、果たして主人公は……」
「ちょっと」
カコは少し気になったのか口を挟んだ
「麻薬どうこうなんて犯罪、別に無関係の女殺す意味あるの?
意味なく女殺す映画嫌い」
くっ、伊馬君は下を向く。
「……それ、今放映してる?今見に行く映画のプレゼン会だよ」
私も素朴な疑問を口にする
「最近、やる映画ないと、古いのやっていることもあるから、あるよ」
伊馬君はでは、と次の映画に。
「じゃあ、山田太郎監督の『ホテル・ディナー』はどうだ?
この監督の『男道』シリーズは見たことあるだろう、今作もホテルの受付で客に部屋に誘われるヒロイン、助ける主人公、きのいいホテルの仲間と……」
むっ、カコはまた口を挟む。
「ちょっと、ホテルで受付してるだけで、なんでお客にホテル誘われるの?セクハラじゃん、それに私『男道』シリーズも好きじゃないんだ、『男には男しかわからない道がある』って何?それに苦労してるの、ヒロインだけじゃない」
ねー、もっと楽しい映画ー!カコはぶうぶういう。
伊馬君は焦る
「じゃあとっときだ、『BOXS』俳優の誰それが主演で、暴力にまみれる主人公が……」
「暴力反対!それに一つまでだよ伊馬くん!」
カコは三つとも×を出した。
「あ、なんか女性が見て面白い映画と男性が見て面白い映画って違うよね……」
私はカコをフォローする
「いや、確かに男性が多いと言われる映画界で、女性が見て楽しいものを作るのは難しいと聞いたことがある」
伊馬君は頬杖をつく。
「どっちもお客さんなのに」
私はちょっと不満。
「ねー、じゃあ私のは女性作品だし!それでよくない?けってーい。ぱちぱちぱち。
あ、でもね、この会は、あくまで私も伊馬くんも、未来と映画に行きたいの!
だからねー」
カコは無邪気に笑った。
「やっぱり未来が決めて!」
「で……」
私は伊馬君と、ショッピングモールの映画館に来ていた。
「伊馬君、付き合ってもらってごめんねー。でもこれなら、メタルライダーファンの彼氏に付き合ってる彼女に見えるから」
そういいながら私は映画館のショップでメタルライダーのグッズを見る。
「とりあえずこれとこれ買おう、後は通販」
わくわくが止まらない私、
「これ、どう見ても、メタルライダーファンの彼女と付き合う彼氏だろ……」
あきれる伊馬君。
映画はというと、クラヤミに襲われた主人公たちが、光を取り戻すために戦うというお決まりのストーリーかと思いきや、クラヤミ国の王子と剣を交わすうちに芽生えた友情がいつか主人公を動かし、やがて闇なければ光ないと気づく!
そこから主人公は最後の力、闇の力さえも受け入れて!
闇によって虹の力を取り戻すの!
「メタルライダー!がんばれー!」
「NIJI!NIJI!NIJI!」
このご時世、大きな声を上げられないけど、俳優さんやエキストラの声援が届いて、ついにメタルライダーファンは伝説の勇者になる。
あー、もう、やっぱり娯楽作品はこうじゃなきゃ。
私は口に出していたらしい。
「娯楽?」
伊馬君はCGに見とれながら聞き返す。
「うん、こうね、仕事いつも考え考えやるから、たまに見るなら何も考えない娯楽がいいかなーって」
「いや、これ、結構深い話だよ……」
メタルライダーで真剣に考えこむ伊馬くん、……いいかも。
「それで、伊馬君もメタルライダー見てるの?」
メッセージツールでカコが意外そうに言う。
「そう、なんか考察チャンネルではじめて、そっちの視聴者も取り込んで、なんかすごいことになってるんだって」
私がちょっとチャンネル見たら、私の知らない伏線があったらしく、預言者扱いされてた伊馬君がいた。
「あ、じゃあ、私もぴちきゅあまた見ようかな」
「うん!みんなでニチアサみようよ!」
「うん!」
私はスタンプを押す。
今日は楽しかった、久しぶりに映画も見れたし、伊馬君もカコもニチアサ見てくれるって。
明日からまた二人には振り回されるかもだけど、とりあえず今日は寝よう。
おやすみ。
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