第32話 真犯人の影(2)二つの死体
疑惑の女優。糸川十和子はそう呼ばれている。
双子の姉は十和子のマネージメントをしており、顔かたちだけはそっくりだったが、十和子とは違って控えめだった。
十和子も元はそうだったが、女優として仕事をしていると今の派手な振る舞いの人格を求められ、いつしかそれが性格になった。
そんな十和子に恋人ができたのだが、男はトロフィーワイフとして十和子を求めただけの男だった。なので、十和子のライバルとされていた女優が十和子を押しのけてカンヌ主演女優賞をとると、さっさと乗り換えてしまったのだ。
十和子も、心から愛していたとは言えないが、プライドは傷付いた。
そこで、男の家に合いカギで忍び込み、男が風呂に入ったところでドライヤーを湯船に放り込んで殺した。
だが、そこで双子の姉を利用した。付き合っていたのが本当はどちらなのか、殺しにいっていた間にマンションでアルコールを飲んで寝ていたと主張するのはどちらなのか、確たる証拠がないのをいい事に全てを姉に押し付け、姉に睡眠薬を大量に飲ませ、事故か自殺かわからないようにして殺した。
そして芸能界を引退すると発表すると、アメリカに移住する事にしたのだ。
(認めないわ。認めるもんですか。
いずれ満を持して、ハリウッドでデビューしてやる。それで日本に帰って来て、私を二番と言ったやつらに思い知らせてやるわ。
ふふ。証拠は一つもない。完璧よ。私は完璧なんだから)
十和子は一人で笑い転げると、笑いを消し、スーツケースを手に部屋を出た。
十和子の住むマンションの廊下が見える道路上で、セレとモトは待っていた。トラックが休憩するところで、ほかにも数台がとまり、ドライバーが仮眠している。
そんなトラックの中に、セレとモトの乗るトラックもあった。荷物を運ぶ軽トラックだ。
モトは運転席で、缶コーヒー片手に地図を見ているようにしており、セレは荷台に隠れ、目立たないように開けられた穴から狙撃銃を構えていた。
『もう出るぞ』
リクが言って数秒後、エントランスから十和子が出て来た。
マンションの前には、山ほどのマスコミが集まっている。その中を十和子は堂々と、日本を出て行こうとしているのだ。
あでやかな笑顔を浮べ、手すら振って、十和子は呼んだタクシーに向かって歩いて行く。
荷物を積み込むために動き、一瞬背中を見せる。
その瞬間をとらえて、頭に銃弾を叩き込んだ。
弾が後頭部に到達し、次の瞬間、顔から出て行く。人体に入る時よりも大きな穴を作って弾は出て行くので、顔面は酷いことになっているだろう。
発射音も消しているし、このパーキングエリアは元々車のエンジン音でうるさい上、どの車も暑いので窓を閉め切ってクーラーをかけている。
1キロ先で十和子が糸が切れたマリオネットのように崩れ落ち、タクシーの運転手が何かと確認するために十和子を覗き込んで腰を抜かしたように座り込むのを確認すると、
「終了」
と告げる。
待つほどなく、車は動き出し、その場を離れた。
疑惑の女優十和子の殺人は、すぐにニュースとして流れた。
アジアを代表する美人の1人とまで言われた美しい顔は、パーツも分からないほどに崩れ、死んでいたと報道された。
ただ殺すだけでなく、自慢の顔を木っ端みじんに。それがオーダーだった。
死に顔に興味を集めて、目くらましにするつもりだろうかとセレは思った。
「それを見る事になったタクシー運転手は気の毒だったけどな」
セレが言うと、モトは苦笑し、リクは肩を竦めた。
それとほぼ同時に見つかった遺体があった。
こちらは女子高生のもので、連続殺人事件の特徴を持つ遺体だった。
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