同棲している彼女に今日もホッコリする
同棲している彼女に今日もホッコリする
作者 恋狸
https://kakuyomu.jp/works/16816700426343042738/episodes/16816700426343988701
幼馴染で付き合って五年、同棲して二年目の記念日に僕が彼女唐澤日南子にプロポーズする物語。
本作も、内容がわかるようなタイトルが付いている。どうホッコリするかは、読んでみてからのお楽しみに、となっているのだ。
作者のタイトルの付け方には、学ぶ点がある。
主人公である僕の独白で進む文体。だからといって、前作『嘘告されたので一回振ってから嘘告し返したら何故かオッケーされたのだが』より描写は多い。
冒頭でどんな彼女で、どんな関係性なのか、主人公の行動と向かう先などがテンポよくまとめられている。
卒業を控えた二人は大学生で、同棲している。「『お邪魔します』から『ただいま』に変化した」とあるので、主人公の僕は、彼女の家に同棲しているというわけだ。
二人以外に出てこないので、実家ぐらしではないのだろう。もちろん、実家だけれども親が出かけていていない、またはすでに他界しているなども考えられる。
ただ、彼女が住んでいる家がどんなところかが、いまいちわからない。
家賃はいくらだろう。
「僕が玄関で靴を脱いでいると、ドタドタと足音が聞こえてきた」ところから、アパートや寮でないのがわかる。足音が聞こえるのが先なので、それだけ廊下が長いことを意味している。マンションか一軒家に住んでいるのだろう。
あるいは、平屋かアパートでもみられる、玄関を開けると長い廊下に併設されたシンクがあって、その奥にリビングがある部屋に住んでいるのかもしれない。
彼女はリビングにいて、僕が帰ってきたら、シンク前の廊下をドタドタと歩いてきたのかもしれない。でもそうなると、玄関を開けたらまっすぐ正面に廊下があって、その奥がリビングになっている造りが多いので、出迎える彼女が見えると思う。
靴を玄関で脱ぐときに、腰を下ろし、背を向けている状態なら、背後からドタドタと足音が聞こえてきてもおかしくない。
でも、そう書いてない。
ここは書いてあるとおり、長い廊下の向こうから彼女が足音をならして出迎えてくれるような家に住んでいると読むべきだろう。
「手を洗って、リビングに行くと、すでに料理が並べていた」というところからも、彼女の家が裕福であることが伺える。
たとえば1Kは「一つの居間とキッチン」であり、部屋とキッチンの間に間仕切りがあってキッチン部分だけで二~四畳の広さがあるとされる。オープンキッチンの場合はKが省略されてワンルーム(1R)とされる。
少なくとも、それらの部屋に彼女は住んでいるわけではない。リビングは居間、ダイニングは食堂。ひょっとしたら、リビングとダイニングが一体になっている可能性も考えられる。
「二人ともお風呂に入って一息付いた頃」とあるので、二人一緒に入ったわけではないかもしれない。二人でなら、0.75坪あれば入れるが、一坪ると二人で入れっても狭くない。でも、狭いほうが二人にとってはいいかもしれない。
彼女の親がお金持ちか、あるいは二人は大学生起業家で、すでに相当の収益を稼ぎ出しているのかもしれない。そう考えれば、今年で大学卒業を控えているのに就職活動や卒業後の進路について話題にすらせず、二人は記念日を祝いながら互いの愛を確かめあってプロポーズするのもうなずける。
二人のやり取りが実に良い。
とびきりの「好き」のために、毎日二十回はいっている「好き」をわざといわずにきた僕。不安になる彼女は震える手で僕に抱きついて「わ、私重いからさ。いつも言われてること言われなかったら……不安になっちゃう……」と告げる。
愛が重いから時折暴走してしまうという精神的な重さと、抱きしつくことで感じる彼女の肉体の重みを重ねて、読者に伝えようとしている所がうまい。
噛んでしまいカッコよく決められなかったプロポーズに後悔する僕に、告白したときも噛んでしまったエピソードが彼女から語られ、主人公の僕はおぼえていないなど、二人が付き合って同棲してきた時間を感じられる場面だ。
主人公は「近くにスタンバイしていた袋から小さな箱を取り出」し、キスで放心している彼女に声をかけてから、「そのハコを開けて、溢れんばかりの愛の気持ちを口にした」とある。
箱とハコは同じもので、おそらく結婚指輪だろう。
強調したいなら「近くにスタンバイしていた袋から取り出し」と、袋から取り出したことだけを書いて彼女の前に見せるとき、「ハコを開けて」としてもいいかもしれない。漢字ではなく、わざわざカタカナにしているのは特別なものだと示唆しているから。
「こんなに喜ぶようなことはないよ! あぁ、好きだよ、愛してるよ!」
と、プロポーズが受理されて喜ぶ主人公。
「~のような」がつくと、なんだか気持ちがぼやけてしまい、彼女さんも嬉しさがしぼんでしまうかもしれない。(告白やプロポーズで噛んでしまう主人公だと知っている彼女さんだから、許してくれるかもしれないけれど)
このあと、「僕は目一杯彼女を抱き締めて──キスを」して物語は終わるのだから、「こんなに嬉しいことはない」とか「こんなに喜ばしいことはない」といい切ったほうが、主人公の気持ちがストレートに出るし、抱きしめてキスをする勢いにもつながる。なにより、プロポーズで噛んでしまった彼にカッコつけさせてあげたい。
そうした方が、彼女さんも嬉しいのではないかしらん。
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