大東亜共栄圏

 あれから一年。

 日本は軍拡を進めながら、中国国民党の中国統一の手伝いをしていた。

 

 そして1939年9月1日。

 ドイツがポーランドに侵攻を開始。

 それに伴いポーランドへ独立保障をかけていた英仏がドイツに対して宣戦布告。第二次世界大戦が始まった。

 ここは予想通りだった。

 しかし、このあとが予想外だった。

 9月5日

 史実ではアメリカが中立宣言を出した日。俺はのんきにもこの日、史実通りアメリカが中立宣言を出すと思っていた。

 しかし、違った。

 アメリカは連合国へと加盟。

 すぐさまドイツに対して宣戦布告。

 アメリカが第二次世界大戦へ参戦した。

 これは俺だけでなくドイツ総統であるヒトラーや昭和天皇の予想をも裏切るものだった。

 おそらくソ連を降伏させた日本を恐れてのことだろう。

 日本は今選択を迫られている。

 ドイツを見殺しにするか。それとも泥沼の戦争へとその身を投げ出すか。

 

 ■■■■■

 

「反対だ!戦争への参加など!」

 昭和天皇が声荒らげ、叫ぶ。

 俺と昭和天皇はいつものように庭園で密会していた。

「……必要経費だ。日本はドイツとの交流が深すぎる。どうあっても連合国との対決は避けられない。そうなった時、日本の敗北は決定的だ」

「いや、君の言う冷戦については聞いたよ。しかし、そうはならない。日本も基本的には民主主義なんだ。イデオロギーは同じ。戦争が終わったあと、健全な立憲民主制に戻していけば……」

「甘い。甘いよ。人間の業をなめないほうがいい」

 俺は立ち上がり、昭和天皇に背を向ける。

「別に止めてもいいよ。ただし、止められるならね」

 俺はそれだけ告げてその場を去る。

 俺は先の対ソ戦での活躍から軍神と呼ばれ、軍部、政治においても強い発言力があり、皇族ということもあり、あれの臣民からの評価は想像を絶する。

 昭和天皇もそれを理解しているのか、何も言わずただうなだれていた。

 おじいちゃんのような人を作ってたまるかよ……。

 

 ■■■■■

  

「我が帝国臣民、並びに外国人の方々に私の方から歴史的な発表がある。我が帝国は1939年9月5日に独自陣営の発足を宣言する!この陣営には我が大日本帝国並びにロシア帝国、中華民国が参加する!我が陣営の目標は唯一つ!連合国により不当な支配を受けているアジアの国々を開放することだ!そのためには他のいかなる陣営の指図も受けない!この我が国率いる独自陣営をアジアの永遠の繁栄を願い、『大東亜共栄圏』とする!そして、我が陣営は今なお植民地支配を受けるアジアの同胞を開放するため、連合国に対し、宣戦を布告する!我らの同胞たるアジアの開放が達成するまで我らは死してなお永遠に戦い続ける!アジアの同胞よ。もうさんざん苦しんだろう。もうさんざん辛酸をなめさせられただろう。……もう充分であろう。地を眺めるのは。今こそ我々が反撃に出るときだ。今こそ連合国から受けてきたものを返すときだろう。さぁ!反撃の狼煙を上げろ!我らが母国!我らが文化!我らが空!連合国よ!返してもらうぞ!以上だ」


 人類史最大の狂気の世界でアジアが一つとなり、一つの陣営が発足した。

  

 ■■■■■

 

 あの演説のあと、陣営の参加を望む国々が日本の大使館のもとに訪れた。

 最終的に大東亜共栄圏に参加したのは日本、中華民国、ロシア帝国を始め、タイ、モンゴル、タンヌ・トゥバァ、そして新疆とチベットが加盟した。

 日本とタイ日泰攻守同盟条約を結び、すでにインドネシアへの攻勢が始まっており、降伏までさほど時間はかからないであろう。

 そして、問題は新疆とチベットの大東亜共栄圏の加盟。

 今まで中国統一に力を貸してくれていた日本がいきなり2つの国を仲間として引き入れ、中国統一を阻止してきたのだ。

 抗議があって当然であろう。

 俺は蒋介石に呼ばれ、中華を訪れていた。


「一体どういうつもりで?」

 俺が席に座ると同時に蒋介石が訪ねてくる。

「はて?どういうつもりとはどういうことでしょうか?」

「新疆とチベットが大東亜共栄圏に加入することを認めたことだ」

「おかしいですね。新疆もチベットもアジアの開放を願う同胞である加盟を望んできたのなら当然それに答える」

「違う!日本は我らの中華統一に強力してくれるのではなかったのか!」

「中華統一。それはすでに果たしたであろう。様々な軍閥を駆逐し、中国共産党も排除した。中国統一それはすでに果たされた」

「な、な、な」

「忘れるな。中国統一など日本には重要ではない。別に中国の支配者が君たち中国国民党でなく、新疆やチベットであっても構わないのだよ。よく、覚えていくと良い」

「あ、あぁ、あぁぁぁああああ」

 蒋介石は絶望の表情を浮かべ、二の句が告げられなくなる。

「……すまないな。完全に日本としてもアメリカ参戦は予想外なのだ。避けられる戦いは避けなければならない。でないと、我らは負けるからな。アヘンのときのように」

 俺はそれだけ言うと、蒋介石を残し、部屋を出ていった。

 中華人民共和国のこともある。あまり中国の領土を広げて、国力が日本に迫られたら困る。

 共産党じゃないから大丈夫だとは思うが、念の為。

 俺もこう見えて暇じゃない。さっさと日本に帰り、戦争計画をたてなければ。米帝の参戦でもともとあった計画のほとんどを見直さなければならなくなった。

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