土を描く人

 空の青、草の蒼


 それぞれのコントラスト


 地の果てまで続くような畑を貫く細い道


 果てを覆う山々


 その中で


 耕すでもなく


 筆を握る人がいた


 なにか描いている


 真っ白なキャンパスに


 色をおとした


 茶色、オレンヂetc…


 何か描かれているんですか?ときいた


 髭を生やした赤毛のオヤジはボソリと答えた


 「土」


  と。


 彼はひたむきに視線は土を捉えて


 麦わら帽の影に潜む額にはじっとりと汗がにじむ


 まだ13の私は何故かと思った


 昆虫や景色でもなく土だったから


 オヤジは頼んでもないのに話し続けた



「土は母だ


 たとえ忘れていようと


 魂や細胞一つ一つが覚えている


 その感覚をここに抽出したいのだ」


 そう言ってまた黙りこくっては熱心に描いている


 わたしはふーんと通り過ぎた

 

 しかし思わぬ再会をする


 遠い異国に住んでいたときのことだったから


 すっかり忘れていたのだけれど


 日本にやってきて十数年したある日


 大きな美術館に展示されていたそれは


 まさにどう見てもそれだった


 連れの息子は絵を見た時


 ナニコレといった顔をして


 向こうの展示に行ってしまったが


 わたしにはわかる


 これは     だ


 そして思った


 近いうちに里帰りしようかなと


 

 

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