第4話 コスプレイベント
恵太郎は学校に行く際、良太郎と出会った。
「おー、恵太郎おはよー! どうだ? 目当ての品は。」
そう言われた恵太郎は、キーホルダーを出した。
勿論推し《メリエッテ》のものだ。
「ほー……なかなか良いじゃねえかよ。って、どうしたよ、恵太郎。浮かねえ顔して。」
「あー……実はその時にさ、乃木さんと会って……」
「マジで!? ……お前、羨ましいな……その話、詳しく聞かせてくれ。」
恵太郎は渋々ではあったが、凛花に会った経緯のことを耳打ちで話した。
「あー……そんな感じですかー……そうですか、そうですか。」
「ん? 何か問題でも?」
「……これは俺ら二人だけの秘密だな。そこは本人を尊重しようぜ。言うに言えねえことなんて誰にでもあんだろ? お前が太った原因もそうだし。」
「うん、そうだね。それでも友達で居てくれている良太郎には感謝しかないよ。」
二人はいつものようにアニメ関連のことで語り合いながら教室へ向かっていった。
時は流れ、翌週。
恵太郎は、コスプレイベントでイベント限定の品を買うために会場を訪れていた。
メリエッテの限定ポスターが発売されているとのことで、それを買うためだ。
しかし、6000円と結構な値段がする。
だが、推しのためには金は惜しまないのがアニメヲタクの性というもの。
恵太郎は躊躇うことなくカゴに入れ、会計へと持っていった。
使った金は他にも買い、総額10000円は悠に超えた。
と、ここで恵太郎の目に、「火椎リンネ」のコスプレショーがやっているとのことでその目に止まった。
恵太郎はお忍び感覚で見に行くが、何せ太っている彼はよく目立つ。
サイン会が行われているのはわかったが、人集りのせいでなかなか前に進めないし、恵太郎は他人から見れば横も広いので邪魔になる。
やっとサイン会場の受付に着いた恵太郎だったが、その「火椎リンネ」が誰かにそっくりだということに気がついた。
そう、乃木凛花に、だ。
それもそのはず、先週コスプレコーナーで見ていたウィッグと、ラノベの新刊のヒロインの絵のキャラと一致していたからだ。
しかも目鼻立ちも似ていた。
サインください、と声を出す恵太郎、ラノベの新刊にリンネはサインをしていく中で、こう考えていた。
営業スマイルは崩さずに、だ。
(なんで栗巻くんが来てるの!? やばい……バレそう……)
……完全に焦ってしまっていたリンネ(凛花)なのであった。
夕方、漸くイベントも終わり、凛花に戻ったリンネは、公園のベンチでアイスを食べながらひと伸びしていた。
だがそこに、KYなのか何なのか、凛花にとってはできれば今日一日近づいて欲しくない人物が……
恵太郎だった。
「あれ、乃木さん?? 偶然だね。」
「ひゃああああああッッッ!!??」
恵太郎に声を掛けられ、甲高い悲鳴を思わず出してしまった凛花。
その拍子でコスプレ用品を入れていたビニール袋がガサっとベンチから落ちる。
「あ……荷物拾うよ。」
恵太郎がビニール袋に手を伸ばした直後、凛花は慌てて制する。
「わーーーーー!!!!! ちょっと待って! アンタは触んないで!! これ! リンネになるための……」
「え?」
「あ…………」
凛花の口からつい、割って喋ってしまった「リンネ」という言葉。
恵太郎もこれには流石に追求せざるを得ない。
「……まさか『火椎リンネ』って……乃木さんだったの!?」
これはもう、凛花は言い逃れようがない。
「……うん……」
アッサリと白旗を挙げた凛花。
「……分かった。見なかったことにするよ……」
恵太郎はそう言って、気まずそうに立ち去ろうとした。
と、ここで凛花が恵太郎の腕をガシッと掴んだ。
「栗巻くん!!」
「え? な、なに? 乃木さん……」
「……今日一日……付き合って!!」
「へ?」
恵太郎は訳がわからないといった顔で答えたが、凛花は恵太郎の腕を引っ張って、街へと駆け出していったのだった。
赤面した、膨れっ面のままで。
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