もしも、キモブタヲタクインキャが学年1の人気者美少女の秘密を知ってしまったら。

黒崎吏虎

第1話 その偶然は必然で

 彼の名は栗巻恵太郎くりまきけいたろう

高校2年生、165センチ100キロの巨漢。

見ての通り、丸々とした体型に四角い眼鏡でルックスも冴えない。

しかも重度のアニメヲタクとくれば、スクールカーストは必然と下の方になる。

そんな恵太郎は、親友で剣道部(イケメン)の宮崎良太郎みやざきりょうたろうと教室でアニメの話をしていたのだった。



 「なー、恵太郎。『紅焔こうえんのイシンヴァリア』の12話見たか!?」


良太郎は興奮気味で、恵太郎に今アニヲタ界では話題になっているアニメの感想を聞く。

良太郎は切長の目に細く高い鼻、茶色い髪が特徴で、アニヲタの気さえなければ女子に凄ぶるモテていたであろう残念イケメンだ。

本人曰く、「三次元の女子はめんどくさい」との事らしく、内気でモテた試しもない恵太郎からすれば本来はムカつく言い草なのではあるが、恵太郎はクラスから「聖人君子のデブ」と半ば揶揄われ気味に言われるほど、嫌味も悪口も殆ど言わない奴なので、全く気にしていないのが実情だ。


「ああ、うん、見たよ。メリエッテがさ、バークの死を思いやるところが泣いたな……」


「お前そこかよ、泣いたの。……うん、お前にメリエッテは何処か性格が似てるから推しになるのもわかるぜ? バークとグロスキアが相討ちになった結果がな……俺はちょっと納得はいかねえんだよなぁ……」


「それは確かにあるかもしれないよ、良太郎。でもボク的には神回だったかな……? 今回は特に。」


「それに関しては俺も同意見だわ、恵太郎。……ああ、そうそう、それで話変わるんだけどよ、恵太郎。」


「……? 何?」


 

 突然切り替わった話だが、恵太郎は慌てる素振りもなく耳を傾けた。


「コスプレイヤーのさ……『火椎かしいリンネ』……っているだろ?」


「ああ、今ウィンスタで話題になってる人?」


火椎リンネは2年前から活動している、年齢非公開の、ボン、キュッ、ボン、で話題のコスプレイヤーだ。

2人ともリンネの推しである。

典型的な日本人的な顔立ちもそうなのだが、美スタイルも相まってバリエーションも富んでいて、それで多くのアニメファンの心を鷲掴みにしている。


「俺思ったのがさ……『乃木凛花のぎりんか』さんにさ……?? そこ、どう思うよ、実際。……お前、気になってんだろ? 乃木さんのことが。」


乃木凛花は、恵太郎達のクラスメイトで、「学年1の美少女」と名高く、クラスでも人気者と言える存在だ。

恵太郎も彼女のことは気になってはいるのだが、あまりにも高嶺の花すぎて手が出せないでいた。

しかも彼女が属しているグループはアニヲタを毛嫌いしている女子が多いので、恵太郎は醜い自分なんかが……と、話すことも躊躇ってしまっていた。


「うーん……たまたまじゃない? 良太郎。乃木さん、多分僕らみたいな人に近づくような人じゃないと思うし……」


「……だよなあ……思い過ごしだよな……。」


そんなこんなで2人の話は続いていった。

アニメの事だったり、剣道の調子はどうか……だったりを。




 ある夏の休みの日。

恵太郎はアニメグッズショップに足を運んでいた。

萌えアニメのグッズがズラーーーッ……と並ぶコーナーに、恵太郎は今いる。

今日の目当ては、推しのメリエッテのデザインが入ったキーホルダーとシャープペンシルだ。

良太郎は相も変わらず剣道の稽古なので、此処には来ていない。

こういう時は恵太郎が一人で来たりしている。

最初は異物感が凄かった恵太郎だったが、段々と慣れてきて、今ではこんな感じで一人で堂々と買い物をすることが出来ている。

目当ての品を籠に入れて、他にも良さそうなものを物色していると、コスプレゾーンに何やら見覚えのある人物がいた。


凛花だった。


凛花は何やら真剣な目でウィッグをジーーーーーーッと見つめている。


(乃木さん……じゃない、よね……? あの人がこんなところに来るわけがないもんな……)


恵太郎は見て見ぬふりをして、本が陳列されているゾーンに足を運んだ。

そういえばラノベの新作が発売されているな、と思い立った故ではあったのだが。

恵太郎がその本を見つけ、手に取ろうとした瞬間だった。

ほぼ同時に、「豚の尻尾」で手を叩き合わせるような感覚が恵太郎を襲う。

しかも柔らかい。

間違いない、女性の手だ。


「ああっ、えっと……す、すいません……」


そういって恵太郎が手を本から離す。


「いや……あの、すみませ………」


「「あ。」」


女性の方が声を発したと同時に、恵太郎は見てしまった。

手の主の正体を。


「な………え!? 栗巻君!?」


「え……!? の、乃木さん!?」


そう、紛う事なきなのであったのだから。



 この事が恵太郎と凛花の、2人の運命の歯車が動き出した瞬間であった。

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