堕天使は天使となって生きる ~若き天使の子育て論~
紫隈嘉威(Σ・Χ)
プロローグ 待ち人たち
「「お兄ちゃん」」
二人の幼女からそう呼ばれ、天園と呼ばれる花畑で、見事な花冠を冠した幼女の頭を撫でながら青年はこういった。
「作ってもらったの?」
「「うん!」」
双子の幼女の元気な返事を聞いて、彼はようやく安堵を覚えた。出会いから一年、本当の意味で懐いてくれた、そんな返事だったからだ。二人の後ろには少女がいる。作ったのは彼女だ。
「ちゃんとお礼は言ったの?」
「「言ったよ!」」
「偉い、偉い」
そう言って、また幼女の頭を撫でる。そうすると幼女は嬉しそうに満面の笑みを彼に向ける。何もなく、あのままに結婚していれば、形は違えども、こうやって自身に笑みを向けてくれる子供がいたのかもしれないと、刹那に脳裏をよぎった。
が、そんな憂うような気分も、少女が横に座ったことで掻き消えてしまった。
掻き消えてしまったことで撫でるのを止めてしまうと、二人の幼女の関心は蝶へと移り、追いかけている。まだ少し、足取りはしっかりしない、今にも転んでしまいそうだ。できる限り歩かせるようにしなければ。
「相変わらず器用だな」
「そうかな?」
少女はまんざらでもなさそうに答えた。
「羨ましい限りだ」
そう言われ、彼女はふと気づいた。撫でて貰えなかったことに。
そこに不満を覚え、同時に安堵感を覚えた。自身でもそう言う年ではないと思い始めているからだ。だとしても寂しさを感じた事実は消えないのだが。
彼女は彼に気付かれないように溜息をついた。
そんな彼女は純粋に器用さで言えば、彼の上を行く。それについては真なる天才と言ってもいい。
思考速度の速さを持ってして、脳内シミュレーションを組み立て実行し、須臾の間に成功、完成をほぼ確実に導く、その思考速度は、異常、
彼であれば一輪の花を幼女の髪に
そんな彼らはこの
待ち人は氷の大精霊セルシウスと炎の大精霊イフリート、彼ら兄妹の依頼主である。
依頼する程に、大精霊という存在は非常に忙しい。
特にここ四年は、気象の劇的な荒れが起こり、荒れは慢性的な災害へと発展し、荒れを抑え原因を潰す為に奔走しているのだ。
氷の大精霊というだけあり、冷気を操ることに長けた彼は、熱気を操ることに長けた炎の大精霊と共に各地を飛び回る頻度を言えば、他の大精霊の比ではなく、休みがない。
そんな彼らを待つ彼らは、その状況を鑑み、最悪でも一日の時間を取れる日を申し合わせている。
ルシフェル、それが兄の通り名である。その名の通り、天使族である彼は、同族とは違う生まれを辿っている。
気象の荒れは天使族が一時的に大精霊の指揮下に入り総出で事に合っている。本来の立場は逆であり、大精霊にも眷属がいるのだがそれでも手が足りないのだ。ただ、ごく一部の天使族はそれにあたれない事情もあり、その所為で、違う生まれである彼に依頼が入ったわけだ。
少女はラジエラ、ルシフェルの妹である。
美しい蒼い髪の幼女はセレ、燃えるような紅の髪の幼女はイム、兄妹が依頼を受けて探し出した双子の半精霊だ。
セレはセルシウスの、イムはイフリートの娘である。
だからルシフェルは時間の取れる日を申し合わせたのだ。
実のところ、世界中を飛び回るようになった時の年齢を鑑みるに、二人は親の顔をきちんと把握しているのか非常に怪しい。その境遇故に、元の性格よりも人見知りがちになってしまっているは明らかである。
本来ならそのまま彼らの元に返したいのだが、返したところで二人が安心して暮らせる場の準備ができるほどの時間が彼らにはない。更には、二人が親の顔を覚えていなかった場合にかかる精神的負担は相当なものだ。
事前に様子を伝えているとは言え、彼女らの反応を見た彼らが相当なショックを受けるのは目に見えている。
それこそ、蝶を追いかけ花を摘み、こんなに元気にはしゃいでいるものの、その笑顔や元気は見つけて懐いてくれてから片手で数えられるほどしかない。
やはり彼女らなりの遠慮があるのか、それが素なのか測りかねている。
将来的なことも考えて、せめて初めては時間が取れるときに合わせ、その様子で今後を考えていかなければとルシフェル思い、今に至っているのである。無論、この状況は彼一人が導き出した答えではない。
ここまで方針を決めて置いて何なのだが、二人の将来を考えるとこれでいいのかと疑問が残る。そう、もっと長期的に考えるのならば、だ。
気象の荒れの収束は目途が立っていない。しかも、災害は抑えきれているとは到底言えないのだ。地形は目まぐるしく変わり、生物は大半が死滅、寒帯や熱帯が広がり、狭い温帯をあらゆる生物たちが日々取り合い争っている。眷属達の数は確実に減っており、天使たちには倒れるものすらいる。
二人の境遇を考えると、事態の収束を待てば親と子にある壁は厚みと高さが増す。
『きちんと自分で判断できるようになるまで』それは問題を先延ばしにする甘言でもある。それは分かっている。だからこそ、今回はこうしたのだ。
どう感受するかなどその時にならなければ分からないのだ。こればっかりは彼女らを信じるか信じないのかの話ではない上に、完全に理解できているわけではない。
「稀有に終わってくれればいいが」
小さな彼の声、ラジエラは聞き逃さなかった。
「お兄ちゃん、変わったよね」
「聞こえたか」
「うん」
変わって当然だろう。歪を正されたのだから。寧ろ余計歪になったか。
「変わったと言えば、そうだろな」
「変わったというより、戻った?かな。全部じゃないけど」
「・・・その方が正しいか」
二人の大精霊の到着を待つ間、彼はこれまでの事を思い出していた。
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