黄泉の国夜行~居眠りをしたら、そこは黄泉の国だった~

吉田 春

エピローグ

 学校というのは極めて退屈な場所だ。教師たちの授業はまるで、眠りに誘う経でも唱えているかの如く、僕を深い眠りへと誘う。そして、気づくと授業は終わっていてテストが詰むというわけだ。居眠りは、言わば不可抗力の一種のように感じる。どんなに前日に寝ても、授業中には眠くなってしまう。眠くなったが最期、何をしようが目覚めることはできなくなる…。


「善五郎! 起きろ! 全く何度起こさせるんだ! 」


誰かの怒りと呆れが混じっている声で目が覚める。「あぁ、授業中か…。起こさないでくれよ」と心のなかで思いながらも、渋々起きて板書を写しているフリをする。僕の学校は一限五十分の六時限制だ。しかし、授業の五十分は気の遠くなる程長く感じる。そのため一回の授業で何度も寝ては起こされる。今日も五回ほど一日を通して起こされたが、ほとんどの時間を寝ていた。


「善五郎、今日もめちゃ起こされてたな」


親友の三津谷久太が下校の途中に話しかけてきた。


「まぁな、でも久太も結構起こされてたべ? 」


「今日は二回くらいかな。善五郎のお陰で、あんまり気づかれないんだよ」


「なんだよそれ。羨ましい」


その時、僕と久太は後ろから誰かに背中を押された。後ろを振り向いてみると幼馴染の夢野由羅だった。由羅は少し説教をするような感じで、


「あなた達ね、授業くらい真面目に受けれないの? だから馬鹿なのよ」


と僕等に言ってきた。その瞬間、アイコンタクトで合図をして、僕と久太は同時に走り出して逃げ出す。由羅は最初こそ追いかけてくるが、自分と久太は走るのが得意なので、追いつけるはずもなく振り切れる。二人で、大通りの交差点まで走って逃げた。交差点の信号は赤だったので、そこで一息つく。


「今日も逃げ切れたな。あいつに捕まるとめんどくさいからな」


僕が久太にそう言うと、久太は笑って「あぁ」と頷いた。この交差点からは久太の家とは反対方向だ。そこで、久太と分かれると再び走って家まで帰った。


 家に帰ると、まずは兄の仏壇に手を合わせる。兄は五年前に先刻久太と別れた交差点で、事故に遭い亡くなった。

 当時僕は中学一年生で、帰ったら兄と一緒にゲームをする約束をしていて、楽しみにしながら家に帰ると、そこには誰もいなかった。仕方なく一人でゲームをやっていると、母さんから電話が来た。


『善五郎! お兄ちゃんが…! 事故に遭ったの! 早く病院に来なさい』


それを聞くや否や僕は自転車に跨り、中学の近くにある病院まで全速力で漕いだ。十分弱で病院につくと、看護師に案内されて、救急救命の方へ向かった。息切れしながら兄がいるであろうベッドの前に行くと、父さんと母さんが泣いている。それを見て、おおよその事は察して兄を見ると、顔には白い布がかかっていた。それ以来、家には活気がないし、自分も兄が死んでからゲームは開いてない。そのゲームを見る度に、兄のことを思い出してしまう。

 そんなこんなで、仏壇に手を合わせ終わると部屋に籠もって、ご飯と風呂以外はボーッとして過ごす。夕飯を食べ終わると、まだ八時ごろだったが布団に横になったまま眠りに落ちてしまった。

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