第10話発芽

 夕方になり目が覚めた、昼夜逆転の生活リズムが出来ている。気力と霊気が満ちている、マキから貰った三角剣を並べる。今ならやれる気がした手をかざしイメージする。一気に七本浮かび上がらせる、更に高速で三角剣をトレーニング部屋に駆け巡らせる。

 感覚を身体に覚え込ませる、幽鬼や淫獣とも渡り合えるだろうか? 手に持つ真三角剣に霊気を込めると光り美しい刀身を伸ばす。ここまでは出来た、もう足手まといにはならない。

 不意に何かを投げつけられる、三角剣が反応して叩き落とす。振り向くとマキが立っていた。


◆ ◆ ◆


 霊気を感じて目が覚める、油断した!? 違う……トレーニング部屋からこの攻撃的な霊気をキョーコが出してる!? 覗いて見ると、三角剣を自在に飛ばしている。キョーコの霊気の成長は目覚ましい。嫉妬してしまう、才能の差だろうか? 自分が勝っているのは実践経験だけ、キョーコの姿に憧れた。きっと幽鬼や淫獣の類ならば一人でどうにかするだろう。試しに三角剣を投げ付けて見る、即座に反応され叩き落とされる。本物だ……凄い!

「キョーコ凄いね! たった数日でこれだもん、アタシの修練付き合ってよ!」

自信ありげに笑みを浮かべて

「良いわよ、はじめましょう」

そう言うと正座した、アタシも正座し精神を統一させて行く。既にキョーコが真三角剣と三角剣を纏わせ、待ち構えていた。三角槍を構えて突っ込んで行く!


修練開始!!


 それからどの位の間、ぶつかり合って居ただろう。キョーコとアタシは床に突っ伏していた。

「ま……だ…まだ甘いね……キョーコ」

「くっ……マキの底力に……は……参るわ……本当に……」

夜警がある事など忘れたようにキョーコは全力で向かって来たのだ。結果的に勝ちはしたがこのざまである。寝室でスマホが鳴っている、クタクタになった身体を起こして電話に出るオッサンからだ。

 今晩の夜警についてだった。

「どうするよ? 行けるか?」

「オッサン守ってくれる? アタシら今クタクタでさ」

「何やってんだ?」

「修練終わったところ何だ、一応アパート迄迎えに来て」

「まじかよ?」

「三十分後に来てくれる?」

「わかったよ、だが俺が無茶だと判断したら夜警は無しだ良いな?」

「オッケ〜待ってる」

通話を切る、キョーコが勝手にシャワーしてる。おいおい家主アタシ何だけど……まっいいや、寝室で荷物を漁るお目当てのベルトがある。これ本当はアタシが使う予定の物だったが、今のキョーコが身に付ける方がいいだろう。

「シャワー良いわよ」

「ここはアタシんち!!」

「私達のじゃないの……」

悲しそうな声で言う、きっとわざと言ってるなキョーコのやつ

「あ〜面倒くさい! そうねアタシ達のだよシャワー浴びてくる! 直ぐにオッサンが来るから化粧でもしてな!」

熱いシャワーを浴びる、ふぅ気持ちいい〜! キョーコとあれだけぶつかったんだ。いっそ清々しい疲労感だ、強くなったかなアタシも? 自分に気合を入れて汗を流して寝室へ向かうと、キョーコがポツリと言った。

「マキ……聞いて……私……」

「どうした!」

「服と下着がもう無いの……取りに帰っても良いかしら……」

あ〜そういえばそうだ、幽鬼共は基本剥ぎ取るか切り裂くしか脳が無い。キョーコ結構幽鬼に襲われてるもんな〜そのうち全部無くなるんじゃ無いか? そうはさせないが。

「スーツ借りたときについでに持ってくるべきだったな! よし! 今から取りに行こうぜ!」

「この時間じゃあ夫と娘がいるわ……」

「ちょっと顔見せてくれば? どうせオッサンもうすぐ来るし」

「でも……」

「大丈夫だよ、アタシもオッサンも一緒だ。娘さんにも顔見せてあげなよ」

キョーコが顔を赤くしてモジモジしてる

「大丈夫だってアタシ女だよ? そんな心配要らないって!」

「そっそうよね! 私ったら……家に電話するわ」

アタシは着れれば何でも良いけどね、動きやすければ。結局何時もの服装に落ち着くんだな〜オッサンが来た事を知らせる電話をくれる。キョーコ二人で車に乗り込み用件を伝える。

「まっ疲れてるみたいだからな、今日は京子ちゃんの荷物を取りにいく! ついでにちょっとの夜警だ良いな!」

「オッケ〜」

「お願いします」


 町中を車で走る。特に気配は無いか……昨日、身を持って感じたあの忌々しい気配を注意深く探る。キョーコから念話が届く

『一緒に来てくれる?』

『良いよ別に』

「鷲尾さん一緒に来て貰えますか?」

「構わねぇよ、ダンナにちゃんと説明してやるよ。聞いたなマキ! お前もこい」

「わかってるよオッサン」

キョーコの家につくと

「あの……マキその槍」

「断る」

キョーコがため息をつき、玄関を開けるとキョーコの娘さんが駆け寄ってくる。

「ママ〜!!」

「ヒカル!!」

母娘の対面か……アタシ達の顔を見て

「この人たちはダレ?」

「こんばんわ! アタシの名前はマキ! 宜しくね! 隣はオッサンだよ!」

「おいふざけんな!」

「ヒカル挨拶して」

「こんばんわ! おねえちゃん、おヒゲのオジサン!」

「ヒカルちゃん今何歳かなぁ〜?」

「七さい!!」

「二人とも上がってください」

リビングへ案内され、旦那さんに紹介される。ちぃっとばかし気まずい、オッサンが説明している。ヒカルちゃんは白い布で包んである槍を興味深く見ている。キョーコは荷物を取りに行って今はいない

「ヒカルちゃん気になる? これ」

「うん!」

「オネーサン位の歳になったら持たせてあげるね、代わりにこれ上げる! 掛けてあげるね」

「え〜〜! 大きいのが良い!」

「あっははは!」

突然外から気配を感じる……不味い!

ヒカルちゃんの頭を撫でる。キョーコがキャリーケースで戻って来た、おいおい旦那さんビックリしてるよ。

 それよりも明らかに敵意を向けられている。オッサンを急かせる、察してくれたようだ。

「数はわかるか?」

「無理、敵意が強すぎる。早く来てね先行する」

そう言うと飛び出して行った

「では塚田京子さんは我々警察で保護させて頂きます」

「すみません宜しくお願いします。妻を守ってください」

旦那がオッサンに頭を下げてる

「ヒカル良い子にしてるのよ?」

「ママ……うん……」

ヒカルちゃんを抱きしめている。

「では急ぎますので失礼します! 塚田さんもう時間です、車までお願いします。絶対玄関を開けないでくださいいいですね!!」


 先に外に出て警戒する、幽鬼が多い!!だがコイツらは只の幽鬼だ何体か斬り捨てる。

「オッサン急いで!」

キョーコが気付きポケットから三角剣を飛ばしアタシの援護に回る。

「もっとダンナと仲良くしてくれば?」

「それ嫉妬?」

槍に霊気とちょっとの怒りを込めて穿く、何体か消し飛ばした

幽鬼共が急に湧いた狙われている?

オッサンがキャリーケースを車に積んだ

「乗れ!」

キョーコが乗り込む

「ちょっとまって! この辺りの雑魚纏めて吹き飛ばす!! キョーコの家族が危ない」

『神気』と霊気を融合させて行くが霊気が足りない、仕方がない足りない分は『神気』で補う。裂帛の気合とともに槍の石突きで地面に練り上げた『神気』と霊気を叩きつけた。

『神気』で補っただけあり周辺の雑魚は蹴散らせただろう。

 槍で自分の身体を支える、『神気』は通常の人間には備わっていない。アタシの身に宿る『神気』は後天的に身に付いていたものだ。人間が使って良い力では無い、だが師匠との修行で何とか三割程度の『神気』を操れるようになった。足りない霊気の分を補う為それを超えた、霊気は身体を休ませれば自然と回復する。『神気』は減った分強制的に補充される為、その分身体に負担がかかる。現在使えるであろう三割を超えて放ったのだ。反動は大きい、だが修練のおかげか何とか立っている。

 車に乗り込むと直ぐにキョーコの家から離れた。後部座席でキョーコに膝枕されている

「また無茶して……もう……」

涙が降って来る。

「大丈夫だよ、キョーコの家族護れたし。お土産も置いてきた」

「えっ?」

「ヒカルちゃんにね御守あげたから」

「いててて」

起き上がれる、やはり修練を続けて良かった。

「ありがとうマキ」

「良いって良いって……うわぁ!」

急ブレーキで車を止められる

「オッサン!」

「酔っ払いか? 喧嘩してやがる、ちょっと待っててくれ」

「通報しとくよ?」

「頼む、じゃあ止めてくる」

オッサンが向うと通報の電話をする、何やら揉めているようだ。オッサンが酔っ払いを、取り押さえようと揉み合っているとオッサンの動きが止まる。嫌な予感がした、後ろからナイフで刺されている。

「オッサン!! キョーコ救急車!!」

車から飛び出し酔っ払い目掛けて飛び蹴りをいれ。ふっ飛ばす! 刺した人間を見る

「にげ……ろ……コイツら……グルだ……」

「だったら尚更だよ」

刺した人間を睨む、オッサンは街を守ってるだけなのにそれを……憎悪が湧き上がる。今迄押さえていた感情『憎しみ』『恨み』何より本気の『怒り』が霊気を反転させて行く。

 サイレンが鳴響き逃げようとする人間に『呪弾』を撃つ吹き飛び痙攣しているが知ったことか。オッサンを見る幸いナイフは刺さったままだ、出血は少ない。

「オッサン! しっかりしろよ!」

キョーコがやって来る

「鷲尾さん!!」

パトカーと救急車がやって来る、二人組を逮捕してもらいオッサンは搬送されて行き。アタシたちはオッサンの車で病院へと向かった。既に手術室の前ではオッサンの家族が心配そうに立っていた、キョーコに腕を引っ張られロビーで話し合っていた。

「鷲尾さんどうして刺されたのかしら?」

「もしかしたらだけど偶然じゃ無い、おかしくない? 何でナイフを都合良く、酔っ払いが持っていたと思う?」

「それって……」

「オッサンが言ってた、コイツらグルだって」

「どうやら敵は、幽鬼と淫獣以外に人間も居るって事かな?」

「何のために……そんな」

「誰かの邪魔者って事だろうねアタシたち。面倒だね幽鬼共からは、霊気で感知できるけど人間じゃあわからない……クッソ!!!」

「マキ……落ち着いて……」

キョーコが手を握る

「マキ? 正直に答えて……くれる?」

「何を?」

語気が荒い

「マキの事よ……貴女さっき使ったでしょう……答えて……」

「キョーコ……ごめん……使った……もう二度と使う事は無いって思ってたのに……」

アタシは顔を両手で覆う


『呪い』の力を



■ ■ ■


 一人片付いたようね殺せ無かったけど、まぁいいわ面白い物が見れたし。さぁどちらを片付けましょうか……あの娘の力がもっと見たい……じゃあ決まりね……ふふっ精神的に追い詰めたらどうなるかしらね? さあ用意しなければ新しい舞台を……さぁ隠してる力を魅せて……二人目の生贄は決まりね。その綺麗な顔を歪ませてあげるわ。

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