第526話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン地下十八階まで到着

 サツキ達は、張り切りどんどん先へ先へと進むウルスラに半ば引っ張られる様にして、どんどん下の階へと進んでいった。出てくるモンスターは殆どが物理攻撃が効く種類ばかりだった。あのファイヤースパイダーの親はおらず、正直サツキはほっとしていた。あれはアップで見るには、気持ち悪すぎる。


 地下十八階に入りとうとう暑すぎて息がし辛くなった頃、ようやくユラがサツキにブリーザラー冷却魔法を唱える様に指示を下した。あのままスライムの服を着続けていたら、もしかしたらもう今頃溶けていたかもしれない。それ位、サツキは汗だくになっていた。


「ブリーザラー!」


 サツキが唱えると、ムワッとしていた空気が一気に冷え込んだ。


「生き返るわー」

「これってどれ位効果があるんだ?」


 アールの質問に、ユラは腕組みをして首を傾げた。


「多分、数分だな」

「え!? たったそれだけかよ!」

「効果持続の呪文を唱えてもいいんだけどさ、あれ中級魔法なんだよ。俺の魔力じゃすぐに使い果たしちまうんだよなー」

「効果持続の呪文なんてあるの?」


 サツキが少し溶けかかった様に見えるラムの手を引きながら尋ねると、ユラは鼻の頭に汗を浮かばせながら頷いた。


「補助系魔法だから魔術師のサツキも使えるっちゃあ使えるが、俺が唱えるより効果は薄いだろうしな。あんまりバンバン使いたくないんだよ」


 初級魔法は唱え続けても今のサツキの魔力量だったら問題ないだろうが、中級だとそこまで連発は出来ない。せいぜい十数回、ただし先程上級魔法のメタモラを唱えてしまったので、実質残りは十回程度だろうか。地下二十階までまだあるし、地下十九階にどんなモンスターがいるかも分からない。


「とりあえずブリーザラーを連発するしかなさそうだね」

「だな。悪いけど頑張ってくれ」

「大丈夫」


 サツキはユラに向かってガッツポーズをしてみせた。ユラは身体中に汗をかいていて、それが肌を濡らし妙になまめかしい。水筒の水を飲みながら、ユラはサツキの視線に気付くと「ん?」という表情になって微笑んだ。ああ、やばい格好いい、好き。サツキが思わず心の中で呟くと、ユラが言った。


「物欲しそうな顔してるぜ」

「ぐ……」


 否定出来なかったので、サツキは詰まった。するとユラがまた嬉しそうに言うのだ。


「認めた! サツキが認めてる! おおおお!」


 ユラがまた喜び始めた。どうしてそこまで喜ぶんだろうか。ユラの思考回路が理解出来ない。サツキが何も言えずただユラを横目で見ていると、ユラがわくわくしながら言った。


「後でな! 楽しみにしててくれ!」

「あ、うん、まあ程々に」

「……くおおおおっ」


 そして満面の笑みで提案してきた。


「また混浴入ろうぜ!」

「いや、それはいいかな」


 サツキは速攻断った。するとユラが膨れ始めてしまった。


「何でだよ。サツキは水着着てるだろ、いいじゃねえか」

「ユラはスッポンポンでしょ」

「まあな。でも俺は別にいいぞ」

「いや、よくないから」


 サツキが否定すると、ユラがぶつくさと言い始めた。


「まだそこまでの勇気が足りねえか……自信は大分付いてきた、後は理由付けと勇気が必要だな……」


 どうしてこの人はこうもオープンなのか。サツキは恥ずかしくなってしまって、顔を伏せた。赤くなっている自覚を持ちながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る