第503話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略二日目の出勤へ
半分色仕掛けで何とか祐介を説得した後、ようやくカフェから出た。
昨日帰宅途中に駅前の雑貨屋で日傘を買ったので、今日からは頭も暑くない。すると祐介が羨ましそうにリアムを見た。
「やっぱり涼しい?」
「全然違うぞ。お前も買えばいいのだ」
「僕、さすがにそんなレースひらひらのは嫌だよ」
「私も別に好みではないが、目的の為なら些末なことだ」
「本当潔いよね、サツキちゃん」
「まあ私は見た目はサツキだからな」
「あー暑い」
祐介のこめかみから、汗がつる、と垂れた。
「……仕方ない、半分だぞ」
リアムは祐介の腕を掴むと、傘を持つ方の腕を出来るだけピンと上に伸ばした。普通にきつい。サツキは筋力が無さすぎるのだ。
「おお、涼しい」
祐介が実に嬉しそうに笑った。こいつのこういう素直に何でも喜べるところが堪らなく好きだが、勿論そんなことは言えない。
「貸して。腕辛そうだから僕が持つよ」
「レースは嫌なのではなかったのか」
「一緒に入ってる分には大丈夫」
「そういうものか」
「そういうものです」
リアムと祐介は、狭い日傘の影に小さくなって入りながら会社があるビルへと向かうと、駅の方から来た潮崎と木佐ちゃんにエレベーター前で合流した。二人共額に汗を浮かばせているが、表情は穏やかである。この二人の関係は順調なのだろう、そう思わせる穏やかさだった。
「おはようございます」
祐介が二人に挨拶をすると、周りをさっと見渡した後、声を潜めて潮崎に話しかけた。
「実は今日の昼、サツキちゃんが早川さんとランチをするアポを取り付けたんですが」
「えっ凄いじゃない! 急展開だね! ていうか野原さん昨日から急に雰囲気変わったよね」
潮崎がリアムを見てふわ、と笑う。リアムはこっくりと頷くと、潮崎に理由を説明することにした。
「以前早川さんに『地味子』と言われたのでな、彼女が横にいても嫌がらぬ様祐介に盛ってもらったのだ」
「え、山岸くんが盛った? 何を?」
「化粧だ」
「は? 山岸くん、野原さんのお化粧してあげてるの?」
「さすが……」
木佐ちゃんが呟いた。祐介は頭を掻きつつ、到着したエレベーターに乗り込むと開くのボタンを押す。
「実は姉が美容師をやってまして、化粧の方法をあれこれ教えてくれて、それで見様見真似でやってみたんです」
「どんだけ器用なのよ……」
木佐ちゃんが、リアムにぐっと顔を近づけてまじまじと覗き込んだ。
「あ、で、本題なんですけど」
祐介が切り出す。
「僕が見張ると目立つとサツキちゃんが言って聞かないので、羽田さんが近付かない様に、出来たら潮崎さんに二人を見守ってもらいたいんです」
すると、潮崎がハハハ、と笑った。
「僕目立たないもんね。適任かもね。いいよいいよ」
「ありがとうございます! 木佐さん、申し訳ないです」
祐介がぺこりと木佐ちゃんに頭を下げると、木佐ちゃんがフッと笑った。
「野原さんのことが心配なんでしょ。それは私も一緒だから気にしないで頂戴」
「え? 木佐ちゃん殿が私の心配を……!」
リアムの顔に笑みが浮かぶと、祐介がリアムの肩をぐいっと掴んで自分に寄せた。木佐ちゃんの顔が引き攣るがお構いなしの様だ。
「変な意味はないからね」
「当然です」
にっこりと笑った祐介を見て、潮崎がぷくくと肩を震わせて笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます