第474話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン地下十階・暗闇からの脱出完了

 ユラに精一杯身体を密着させて見えない様に頑張って隠してはいるが、どうしたって見える所はあるだろう。


 サツキを抱えるユラが、時折一瞬だが視線を下ろしては、急いで遠くを見ていた。


「何やってんだろな、俺ら」


 ユラが自嘲気味に言った。


「サツキが言った、虚しいってのも分かるかも」

「多分私の虚しいとユラの虚しいは意味合いが違うと思うよ」

「相変わらず俺には手厳しいよな、サツキ」

「言い易いから」

「なんでだよ」


 ジャブジャブと、ユラがどんどん進んで行く。岸まではあともう少しだ。ちらっと見ると、サツキの服が畳んで置いてあった。


「なあ、何で?」


 ユラが繰り返し尋ねる。少し言いにくかったが、でもだんまりもよくないだろうと思って、サツキは素直に喋ることにした。


「ユラは怒らないから」

「お?」

「怒らないユラは、怖くないから」

「本当? 俺のこと、もうちっとも怖くないか?」

「うん」

「サツキ」

「ん?」

「キスしたい」

「え? いやもう十分したでしょ。それに今日はもうしないって言った後、散々……」

「あれでも遠慮してるんだ」

「嘘でしょ」


 サツキは愕然とした。あれで? あれのどこが遠慮してるというのか。


「口だけで我慢してるし、回数も抑えてるし、サツキが怖がらない程度に優しめに軽めにしてるし」

「あれのどこが?」

「まあお前は俺以外は知らないもんな。まさかあの程度だと思ってたのか?」


 映画とか漫画とかを見てても、そう変わらないと思うのだが、ユラの言っていることは本当だろうか。どうも眉唾ものだ。


「からかってるでしょ」

「お前、段々疑い深くなってねえか?」


 それはユラの所為だと思う。


 ジャバ、とユラが岩風呂から出た。


「ありがとうユラ。あの、降ろすときに目を閉じて後ろを向いて。そうしたらユラの服がある方に背中を押してあげるから」

「俺のケツが見たいのか?」

「さっき散々見せようとしてたでしょ」

「まあサツキになら俺の引き締まったケツを見せてやっても問題はない」

「はいはい」

「じゃあ降ろすぞ」

「うん」


 ユラを見上げると、しっかりと目を閉じていた。ほっとしたサツキは、急いで畳んでおいたバスタオルを身体に巻くと、約束通り背中を向けて格好つけているのか片手を腰に当てて立っているユラを見た。


 うん、確かに引き締まったいいお尻をしてますね。肩甲骨から腰までの筋も綺麗に伸びていて最高です。そんなことを心の中で呟いた。これを口にしたらただの変態だ。


「じゃあ、着替えたら行こうね」

「先に行くなよ! 待ってろよ!?」

「はいはい、待ってるから」


 どうもあまり信用がない様だ。ユラの硬い背中をブラインドの柵の方にそっと押して、ユラが黒煙の中に消えた後、サツキは念の為背中を向けてリアムサイズのパジャマ兼部屋着に着替えた。腰紐をぎゅっと絞り、裾を捲って完成だ。


 髪の毛は、ウォーマラーとウィンディーンを唱えて一瞬で乾かす。これに関しては大分加減も分かってきて、今では変な癖も付かずに乾かせる様になった。大事なのはイメージだ。


「サツキ、終わったか?」

「終わったよ」

「俺の頭も乾かして」


 ポタポタと雫を垂らしながら、ラフなハーフパンツにタンクトップ姿のユラがブラインドの壁から現れた。

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