第427話 魔術師リアムの上級編二日目の映画

 映画を見つつ、二人は会話を続ける。


「こんな人に助けられたら、惚れちゃいそうだね」

「ただまあ、中身はサツキだろうが見た目は私だからな」

「あー……」


 ただ、とリアムは続けた。


「祐介に一番始めに見せた魔法があるだろう? あれは一時間しか効果が持続しない変身魔法だが、一日変身出来るものもあれば、禁忌魔法ではあるがずっとその対象者に変身できる呪文も存在はする。だから、どうしてもサツキが女として生きていきたいのであれば、向こうの世界ではそれは可能だ」

「こっちではそれが使えなくてよかったよ」

「ん? 何か言ったか?」

「いや独り言」

「……相変わらず独り言が多いな」

「寂しい奴とか言わないでね」


 映画では、老婆となった女性がひいひい言いながら山道を登っているところだ。魔法使いは一体どこへ行ったのか。


「まあ、あいつは変わり者でちょっと捻くれているしかなり強引ではあるが、自分に正直な分悪い奴ではない」

「今のどこか褒めポイントあったかな」

「魔術に興味があった様で、細かいこともよく知っていた。私の師の熱烈な信望者だった様でな、私にあれこれ聞いてきたし、可愛い奴ではあったぞ」

「映画観ようよ」


 祐介がリアムをむぎゅっと抱き締め、祐介を向いていた視線を前に向けさせた。


「どうした、突然」

「映画観ようって」


 祐介は繰り返した。声が少し怒っている様に聞こえるのは、気の所為であろうか。まあいい、映画は楽しんでこその映画である。リアムは祐介にまた体重をかけると、画面に集中し始めた。すると、祐介が頭をすんすんし始める。


「こら祐介、くすぐったいぞ」


 映画に集中出来なくなるではないか。リアムが軽く注意すると、今度は立てていた膝をぎゅっと締めてきた。どうしたどうした、祐介よ。そして何故何も言わぬ。


 そして、ようやく頭から離れたと思ったら、こんなことを言い始めた。


「……可愛い方が好きなの?」

「は?」

「……何でもない」


 祐介は怒った様にそう言うと、今度はリアムの首に唇を当てた。あたあたあた当たっているではないか! 祐介よ、本当にどうしたというのだ!


 映画は、老婆が金属のモンスターだとリアムが思っていた家の中に勝手に入っていた場面になっている。何の断りもなしに家宅侵入するとは、侮りがたい老婆だ。


 祐介の唇が、首から肩に掛けて移動している。こここここれは、今一体何をされているのか!


「ゆ、祐介!」

「なに」

「今、何をしているのか!?」

「別に」


 祐介の返事は短い。そして素っ気ない。これは間違いなく怒っている。がしかし、何に怒っているのかが全く分からなかった。つい先程まで楽しく会話していた筈なのだが。


 リアムはこれまでの流れを反芻はんすうした。ユラのことを話題にしていただけだ。あいつは自分勝手な性格ではあるが、勉強熱心でもある。あの探究心は、魔術師となるものには必要不可欠な要因だ。だが残念ながら奴には魔術師の適正がない様なことを言っていたが、それでも始めの頃は師の話を聞いては目を輝かせており、それが可愛らしいと思ったものだ。


 ――ん?


 先程祐介が言っていた、可愛い方が好きなのかという質問。腑に落ちた。祐介は、自分よりもユラを褒められたので、それでいじけていたのだ。


「祐介の方が可愛いぞ」


 リアムがそう言うと、祐介が無言でぎゅっと締め付けてきた。

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