第423話 魔術師リアムの上級編二日目の二度寝

 祐介が持ってきた薬を水でくいっと飲むと、胸につかえた様に渦巻いていた不安が流れて行った様な気がした。


「大丈夫?」

「うむ。済まなかった、祐介。少し取り乱した」

「全然大丈夫。……あのさ」


 祐介が上目遣いでリアムを見てきた。一体どうしたのか。


 すると、言いにくそうに、ボソボソと言った。


「……僕に触られるの、嫌?」

「は?」


 すると祐介は慌てた様に手をぶんぶん振った。


「あーいや! その! 本当は嫌じゃなかったかな? とかちょっと思っちゃって!」

「今さっき抱きついたのは私からだったが」


 リアムは事実を述べた。何を今更この男は言っているのか。毎日散々触れておいて。


「あっそうだった! じゃあ、この先も……続けていい?」


 恐る恐ると言った風に祐介が確認してきた。急にどうしたのだろうか、と疑問に思い、先程泣いたのを勘違いしたのだと思い至る。


 なので、リアムは祐介を安心させる為に言うことにした。


「もう今更祐介と触れ合わずに過ごすなど、違和感があり過ぎて逆に変だと思う」

「……僕もなんだよね」


 へへ、と祐介は笑うと、ベッドに腰掛けていたリアムの隣に同じ様に腰掛けた。


「まだ寝る?」

「腹が痛いので温まりたいな」

「また温めていい?」


 あの下腹部に手を押し当てるやつであろう。あれには驚いた。だけどあれで楽になったのは確かだ。


「……いいぞ」


 リアムがそう返答をすると、祐介が始めは少し遠慮がちに、だが次第に力を込めつつリアムを抱き寄せる。


「あー落ち着く」

「祐介は本当に寂しがり屋なのだな」

「そういう訳じゃないけど」

「そうではないのか?」

「それもまたいずれ。今はゆっくりじっくり」

「何をだ?」

「……横になろうか」


 祐介は何か意図があって行動している様だが、どうもそれを今はまだ話す気がないらしい。リアムは促されるままベッドに寝転ぶと、祐介の腕枕に頭を置いた。これは祐介の脈が腕から聞こえるので、安心した。


 リアムは目を閉じつつ考える。祐介が一体何に焦っていたのかは分からないが、先程祐介はサツキの名を呼ばなかったことに気が付いていた。


 リアムが、自分はサツキではないと言ったからだ。リアムの名前は呼ばなかったが、リアムのことを『君』と呼んだ。


 これではっきりした。祐介は、敢えてリアムの名を呼んでいないのだと。何故だかは分からない。今のこの感じだと、聞いても答えはないだろう。


 なのに、リアムがリアムであることはきちんと把握しているのだ。


 祐介が分からなかった。


 リアムは、腕枕している方の祐介の手を見た。大きな手だ。以前の自分だったらこれ位の大きさだったかもしれないが、それも少しずつあやふやになってきていた。


 リアムは、祐介の手のひらに自分の手のひらを重ねてみた。サツキの手は小さい。そして、これは今はリアムの手だ。


 自分とは一体何なのか、リアムは混乱していた。ここにいる意識は魂なのかそれとも記憶だけなのか、リアムはリアムなのか、それともサツキなのか。


 どうしたら腑に落ちるのだろうか。ふわふわ浮かばずに地に足をつけたいのに。


 祐介がリアムの指に指を絡ませて握った。


 だが、祐介がこうして繋ぎ止めてくれている。


 リアムは、祐介の手を握り返したのだった。

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