第314話 OLサツキの中級編四日目のウルスラ

 手に残った灰をパンパンと叩いてはたくと、ユラがまたすぐ横に近寄ってきた。どうもユラは距離が近い。アールにはどうだったかな、と思い返すが、あんまり記憶がなかった。


「なあサツキ」

「なに」


 サツキが一歩横にずれようとすると、ユラがサツキの肩に腕を回した。逃がす気はないらしい。ユラは春祭り以降、ずっとこんな感じだ。


「そう逃げないでくれよ」

「いや、近いし。ギルドだし」

「いいだろ」

「よくないでしょ」


 なんなのだろう。元の世界のことは思い出すなとか言ってキスをしてくるし、しかもサツキの姿だろうがリアムの姿だろうが関係なく寄ってくる。元は女が好きだと公言しているのに男も好きかもと言ってしまうあたり、本当に読めない。いや元々ユラの様な俺様なタイプはサツキが最も苦手とするタイプなので読めなくても当然なのだが。


「今日は多分出発しないだろうからさ、次に行くダンジョンに持っていく魔術書をどれにするか、帰ったら決めようぜ」

「ユラ、家には帰らなくていいの?」

「俺の荷物、あの家に置きっぱなしだし」

「……それってわざとじゃ……」


 でも、マグノリアについて話をするユラは本当に楽しそうで、目をキラキラさせてここを読めと魔術書を開いて待つ、ユラがサツキが何と感じるだろうかを楽しみに待っているあの姿、あれは好きだ。


「でも法衣がうちに置きっぱなしだな。出発前に一度取りに帰らないと」


 ユラが面倒臭そうに呟いた。


「あの法衣って、何か効力あるの?」


 取りに帰らないといけないということは、バトル時に着用が必須ということなのではないか。すると、ユラが頷いた。


「俺は適性はあるが神信心はうっすいからな、あれは神信心を高める効能があるんだ」

「へえ」

「神信心が高くなると術の効果も高まるからな、結構重要なんだよ。特に回復系はな」

「へえ。でもこの間は、あの黒い人の前でポンポン唱えてたし全部失敗なしだったよね?」


 シーフの前で、三つ連続魔法を唱えていた筈だ。ぼんやりとではあるが覚えてはいた。


「あれは補助系の魔法だから、あんまり神信心は関係ねえんだよ。でもあれ見たろ? ボス倒した呪文」


 サツキはこくこくと頷いた。あの天から神や天使が今にも降りてきそうな景色の中、黒い手が伸びてきた恐怖の呪文だ。あれは非常に怖かったが、でも神々しくもあった。


 ユラがすぐ横でサツキの目を見ながら続けた。


「あれなんかは僧侶系の呪文だから、法衣を着ていると成功率がぐんと上がるんだ。あれは上級魔法だって言ったよな?」

「うん」

「その後魔力がほぼ空になったってことは、俺の魔力量は人並みってことだ。まああの呪文は結構魔力くうからな。これでさっきの質問には答えたろ?」


 そうだ、ユラの魔力量を聞いていたんだった。それすらも忘れさせてしまうユラのこの距離の近さ。恐るべしだ。


「そうなんだけどさ、後で説明するけど、この間ボスを倒した時に手に入れた石がなかなかいいやつでさ」

「石? ああ、あのでっかい蜥蜴を倒した時の」

「そうそう。それが……」


 すると、入り口からウルスラの声がした。


「そこ! 近い!」


 サツキ達が振り向くと、アールにお姫様抱っこをされたウルスラがそこにいた。

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