第308話 OLサツキの中級編四日目、剣士合流
アールはにこにこしながらサツキ達の元へ向かってきた。足元には須藤さんがいる。のそのそと可愛らしい動きが今日ももうとても可愛い。
ユラの手は相変わらずサツキの顎を持ったままだ。サツキはそれを無言で押し外した。ユラが一瞬恨みがましい目をしたが、いやいや、ユラの好きな人の前でこれは拙いでしょうが、と思ったがさすがに言えなかった。
不意にサツキははっと気が付いた。もしや、リアムの姿のサツキに接触していることでアールの嫉妬心を煽ろうとしていたのではないか? だったら悪いことをしたかもしれない。だけどやっぱりだとしても恥ずかしい。いくら協力する、と言ったとはいえ。
「早いな二人共!」
アールがサツキの隣の椅子に座った。そっちじゃないでしょアール、と言いたかったが、これも言えない。ああもどかしい。
「サツキは春祭りは結局参加したのか?」
アールがにこやかに話しかけてくると、サツキの膝に腕を乗せてもたれ掛かっていたラムが、うんうんと頷いた。アールが今度はラムに聞く。
「お、ラムも参加したんだ。どうだった? 楽しかったか?」
ラムがこくこくと頷いてみせた後、ユラを指差そうとし。
ユラが咄嗟にラムの頭をむぎゅっとサツキの腿に押し当てた。
「ユラ! ラムちゃん潰れてる!」
むがむがとバタついている。しかしユラはサツキもラムも無視し、アールに話しかけた。
「お前んちの親はもう帰ったのか?」
「ん? ああ、今朝発った。もうさー大変だったよ!」
サツキを挟んで二人が会話を始め、ようやくサツキはユラがラムのジェスチャーを封じる為に話を逸したのだと気が付いた。そうか、ユラとサツキ達が一緒にいたことはユラは隠したいんだった。それに話してしまうと当然あの時一緒にいた女がサツキだということもバレてしまう。それはサツキとしても面倒臭かった。
まだジタバタしているラムの頭に乗ったユラの手を無言でそっと押しのけると、ラムを抱っこしてあげた。泣きそうな顔をしているが、ここはラムにもきちんと話しておかないと何をジェスチャーされるか分かったものではない。
サツキはラムを抱いたまま立ち上がると、壁に貼られた依頼を眺めるふりをしてラムに小声で伝えることにした。
「ラムちゃん、春祭りのことは、三人だけの秘密。いい?」
ラムが、なんで? とでも聞きたいのだろう、可愛らしく首を傾げた。どう答えればいいのだろう。
「えーと、私が一緒にいたことがばれると、悪い人に襲われたことがばれちゃうでしょ? そうすると皆が心配するから」
とりあえずそういうことにしておこう。
「あ、あともう一つ絶対に言わないで欲しいことがあるんだけど」
なになに? と目を輝かせて嬉しそうに待つラム。非常に言いにくい。でも言われると後がもう想像つかなさ過ぎて怖いから、言おう。頑張れサツキ、負けるなサツキ。
「あの……ユラとキス、したことは内緒。そういうことは、他の人には言わないのがルールなの」
少し考えた後、ラムがにっこりとして頷いてくれた。
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