第285話 魔術師リアムの中級編四日目の飲み会で社長の白状は最終段階へ

 ジョッキがどかどかっとテーブルに置かれると、祐介がリアムのところに回るのを慌てて阻止しようとしたが、社長経由から回ってきた。ああ! という顔をしてこちらを見ているので、リアムはちょいちょいと祐介を呼び顔を近付けた。


「今は私のことよりこちらの話の方が重要であろう」

「だったら尚更飲んじゃ駄目」

「隣に祐介がいるだろう?」

「……あーもう! その一杯までね!」

「承知した」


 リアムは居住まいを正した。


「続きを」


 短い一言を告げた。


「はい……僕は大学三年生になって、この会社の起業を考えていたところだった。でも輸入するってなると資本金はやっぱりある程度欲しいし、人に使われるのは性に合わないしどうしようかなって思っていたところで、麗子さんから告白されたんだよ。でも僕は正直年下の方が好みだったし、麗子さんは綺麗だけど羽田の想い人ってとこだけでもうアウトっていうかさ。だから、これなら諦めるだろうって思って条件を出したんだ」


 久住社長は背中を丸めながらビールを一口飲んだ。


「資本金と、初期費用が賄えるだけのお金があるなら考えてもいいけどねって」

「うっわー最低……」


 率直な意見を佐川が述べた。


「だから、これなら諦めるだろうって思ったんだよ!」

「それにしたって酷い台詞ですよね。女性を金としか思っていない」


 橋本が冷静に言う。


「……そうしたら、麗子さんがお金は用意したって言うから」

「飛びついた訳ですか」

「僕だってさ! 考えたよ! でもまあ麗子さん綺麗だし、お金もくれるし、これから好きになっていけばいいかなあと思って、ちゃんと幸せにしてあげようと思ったんだ」


 成程、元々はそこまでの悪人という訳ではなかったらしい。


「そうしたらどこからそのお金の話が漏れたのか、羽田に伝わっちゃってね。もうカンカンに怒ってたけど、でも僕達はもう結婚式の予約もしてたしそれに僕達自身はお互い結婚する気だし、外野が何言ってたって、ねえ?」


 誰も同意しない。一同は静かにビールを口に運んだ。


「……まあそれで会社を立ち上げて、始めは麗子さんと二人、それからしばらくして塩崎さんも入ってくれたよね。そうやって少しずつ会社を大きくして行っていたところで、数年ぶりに羽田から連絡があったんだ。羽田は本当に困ってた。僕達が始めはお金で繋がっていたけど、一緒に会社を盛り立てて行く中で絆を深めていったのも見て分かったんだろう、昔のことは謝るから、雇ってくれと言ってきた」


 社長は俯きがちに言った。


「僕は、結果として羽田が好きだった人を金の為に奪った男だ。頭なんて下げたくなかっただろうとは思ったけど、僕も罪滅ぼしのつもりで、雇い入れた」


 リアムはビールを口に含んだ。何とも悲しい話だった。飲まずには聞いていられない。


「丁度子供も出来た頃で麗子さんもいたりいなかったりだったし、羽田とは和解したと思った僕は頑張って事業を大きくしていった。それが、ここ最近麗子さんが僕に冷たくなってきて、どうも原因は更年期障害だったみたいで、苛々してるし不安定だし、それで僕も欲求が溜まるというか、あるよねご無沙汰だと」

「やっていいことと悪いことはありますけどね」


 田端がさらっと返答した。

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