第274話 OLサツキの中級編三日目夜の皆からのハグの後
怒鳴られるのは、確かに怖かった。こんな立派な体格のリアムになっているのにリアムには申し訳ないが、やっぱり怖いは怖い。
どうしても、力がなかった弱いだけの笑うしかないサツキを思い出してしまうから。
だから、言った。
「うん……怒鳴るのは、怖いからなしがいいな」
「本当にごめん。俺、ずっと一人で暮らしてたし他の奴らと馴れ合う気もなかったから、どうも話し方とかがキツイみたいで、サツキがこんなに怖がるなんて思ってもみなかったんだ」
ずっと一人? この若さで?
「ずっと一人だったってどういうこと?」
「……うちは所謂豪商ってやつでさ」
豪商。儲かっている商人のことか。
「別の町に親はいる。で、俺に跡を継げ継げってずっと言われて育ったんだけど、俺はマグノリアが大好きで冒険者になりたかったから親にそう言ったらカンカンに怒られて、それで大喧嘩したのが十五の時。家出して、それから町を移動して、路頭に迷ってる時にリュシカに助けてもらってさ」
「リュシカさん? あの占いの?」
「鑑定士な。で、リュシカが出世払いしろっていって暫く飯食わせてくれて、何とかギルドの訓練所にも入れて、その金も出世払いしろって言うから遠慮なく借りてさ」
「そうだったんだ……」
かなり軽口を叩くと思ったら、随分と長い付き合いな訳だ。
「あの家も、実はリュシカが貸し出ししてる家でさ、始めは出世払いだとか言ってたけど、徐々に借金を返していって、この間のドラゴン討伐でようやく全部返し終わってさ」
ウルスラにしろユラにしろ、お金は結構切実な問題らしい。リアムの口座にはそこそこあるので、何だか申し訳ないような気がしないでもなかった。
「何だかあの人、ユラに対してはお父さんぽいなってちょっと思ったんだ」
「え? お父さんぽい?」
「うん。助言代金はまあしっかり持っていったけど、でもユラに対する助言の内容は助言というよりも心配してるって感じがした」
「金をしっかり取っていった癖にか?」
「そのお金を払ったのは私でしょ」
「だな」
目を閉じながら、ユラとラムに抱き締められながらこんな風に話していると、先程までの不安や恐怖はどこへやら、だ。我ながら現金なものだと思うが、だっていやらしい意味でなく、サツキ自身のことを思ってこうしてくれているのが分かるから。
「なあサツキ」
「なあに」
ユラが言い淀む。どうしたんだろうか。
「俺さ、怒らない様にするし、サツキが怖がらない様にするから」
サツキは目を開けた。ユラは相変わらずギュッと抱きしめていて、ラムが少し歪んでいる。
「……うん」
「だから、俺にももっと気を許してくれよ」
「俺にも? も?」
一体誰と比べてだろうか。
「ラムのことを可愛いって思ってるのは知ってるけどさ、俺も一緒にいるのに」
「え、ラムちゃん?」
ラムが「なに?」という表情でサツキを見上げた。
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