第259話 魔術師リアムの中級編四日目の出社後
リアムと祐介が出社すると、潮崎と木佐ちゃんが給湯室前で何やら楽しそうに話している。
「おはようございます」
祐介が元気よく挨拶をしたので、リアムも慌てて挨拶をした。
「おはようございます!」
まずは顔を見たら挨拶。これが社会人の常識だという。リアムはこういった組織に属したことがなく、冒険者登録をしてあるギルドでもここまで形式には拘らない。そもそもギルドに赴く時間もばらばらなので、同じ時間に出勤するという経験は初めてである。
「おはよう。今朝も仲いいね」
潮崎が、リアムと祐介を見て感想を述べた。ちら、と執務エリアの方を一瞬見ると、安心させる様に笑いかけた。
「今日はあの人展示場の当番だから、今日は出社しないよ。ちょっとは穏やかに仕事出来るかね、ははは」
「ああ、今日は羽田さんの番でしたっけ」
展示場の当番。一体何だろうか。
「祐介、当番とは何だ?」
すると、祐介がにこやかに教えてくれた。
「前に話したでしょ? 家具の見本とかが置いてある所。いきなり商談になることもあるから、基本営業が誰かしら一人は行くことになってるんだよね。昨日までは松田さんが暫く担当してたんだ」
そういえば、営業は八人いると聞いていたが、あと一人だけまだ会っていなかった。
「とすると、祐介もその内行くのか?」
「そこなんだよね」
途端祐介の表情が曇った。そして潮崎に話しかける。
「潮崎さん、僕の当番、暫くスキップしてもらうことって出来ますか?」
「え? ん、まああっちの方が家が近い人は喜んで変わってくれるとは思うけど、何で?」
「あの……羽田さんがあんな感じだから、サツキちゃんを置いて行きたくなくて」
祐介が言いにくそうに、だがきっぱりと言った。
「祐介、だが仕事は仕事だろう? 私は大丈夫だから」
「嫌だよ、だってまた家の前をうろつかれたりしたらどうするのさ」
すると、木佐ちゃんがぎょっとした様にリアムと祐介を見た。
「え? 羽田さんが野原さんの家の前を?」
「ああ、木佐さんには言ってなかったね」
潮崎が週末にあったことをさらっと説明すると、木佐ちゃんが自分の二の腕を抱き締めた。
「それ……ストーカーじゃないの」
祐介が少し怖い顔で頷いた。
「あの人、最近明らかにエスカレートしていて、週末に二回もうちの周りを彷徨いてたんです。僕らが家に帰るとついて来てたし」
「え!? そうだったの!? それいつの話!?」
潮崎が驚いた様に聞いてきた。潮崎は酔っ払って大騒ぎしている羽田は知っていて通報もしたが、その前のことは聞いていない。思っていたよりも状況が酷かったからだろう、潮崎の表情も曇ってしまった。
「あれの前の日です。休日出勤して散歩がてらとか言ってたけど、僕らがいない間にサツキちゃんちに行ってたみたいで」
そこまで聞くと、潮崎がしっかりと深く頷いてみせた。
「分かった。これは営業皆に連絡しておく。当番は暫くはいいよ。だから今日、何が何でも社長に何があって羽田さんをあそこまで自由にさせているのか、必ず聞き出そう」
四人は顔を見合わせると、こちらも大きく頷いたのだった。
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