第222話 OLサツキの中級編三日目、道中
親子の姿を見て、そういえばとサツキは疑問に思った。リアムに親はいるのだろうか。師匠のマグノリア・カッセの家に住んでいるとはユラの言葉だが、ある日突然やって来られて人が変わった様だと言われても困る。
ユラなら知っているかもしれない。サツキは機嫌の良さそうなユラの表情を見て、尋ねてみることにした。
「ねえユラ。リアムは家族っているのかな? 知ってる?」
「リアム? いない筈だぞ。幼い頃にマグノリアが引き取ったっていう弟子がリアムだし。親はどうなんだろう? 聞いたことないな」
そうか、マグノリアの自伝めいた部分に、幼いながらって書いてあった。あれはそういうことなんだ。丁稚奉公みたいな感じなんだろうか。
「奥さんとかはいなそうだけど、子供とか」
「あー、それはいない」
「そうなんだ」
少しホッとした。いきなり子連れの別れた奥さんが乗り込んで来たりしたらびっくりしてしまう。
ユラが空を見上げる。
「そろそろ伴侶が欲しいって言ってたな」
伴侶。結婚相手のことだ。ということは、相手もいなかったということか。
「そっか。それはちょっと安心した」
「どういうこと?」
ユラが眉間に皺を寄せる。イケメンが台無しだ。
「だって、もし恋人とか奥さんがいたなら、私がリアムを奪っちゃったことになるでしょ」
「それは向こうのリアムも一緒じゃねえの?」
あはは、とサツキは軽く笑った。
「ユラは知ってるでしょ? 私は大人になってもキスひとつしたことがない女だったってこと」
とにかく怯えて逃げて、誤魔化し笑いをして生き延びる日々だった。
何が楽しくて生きていたのか。唯一勇気をくれたのはアイドル達だった。あの子達がいなければ、サツキはきっともっと早い段階で電車に向かって一歩を。
「サツキ!」
ユラが足を止め、サツキの腕を掴んでいた。ラムがぐいぐいと手を引っ張る。今にも泣きそうな顔をしていた。
「……なに、どうしたの二人共」
一昨日のラムを思い出した。あの時は神社の祭りを思い出していると、ラムが手を引っ張って急いで中央広場に行った。
ラムの表情はあの時と同じものだった。ぼうっとしていたのだろう、そう思っただけだった。
なのに、何故ユラも同じ表情を浮かべているんだろうか。
「しっかり、してくれ……」
「しっかり、はまあ確かにしてないかもしれないけど、大丈夫だよ?」
「もう思い出すなよ」
「え? 何を?」
何でそんな苦しそうな顔をしてるのか。全く意味が分からなかった。
ラムがサツキの足にしがみついてきた。ユラは、ラムを挟んでサツキを抱き締めてきた。二人共、どうしちゃったんだろうか。様子がおかしい。
「サツキがいた場所のことは、もう思い出すなよ……!」
「だって自分がいた場所だし……」
そう言うと、ラムがいやいやと言う様に首を振ったのが分かった。ユラの腕に力が更に篭って、痛い。
「わ、分かった、なるべく思い出さない様にするからっ」
訳が分からないまま、サツキはそう言うしかなかった。
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