第213話 魔術師リアムの中級編二日目夜の映画
祐介が使うドライヤーだと、何故こうも蕩けてしまいそうになるのか。
自分でやってみると何故か髪が巻き込まれてしまうのでそもそも比較の対象にすらならないのだが、それにしてもこの祐介の指。
そういえばマッサージも非常に上手であった。祐介が現在身につけている様々な技量は、祐介の二人の姉によって育てられたものと言っても過言ではない。そういう意味では、今それが回り回ってリアムに快楽を与えているのだから人生何がどう繋がるか分からないものである。
「じゃあ観ようか」
「うむ」
「……電気消す?」
「その方が集中出来はする」
「あのさ」
「どうした?」
「エアコン付けていい?」
「エアコン、とは何だ?」
「部屋が涼しくなるやつ」
祐介はそう言うと、窓側の壁に掛けられた白い機械を指差した。あれは何かと思っていたら、そういったものだったのか。
リアムは頷いた。
「ブリーザラーの様なものだな。承知した」
「何それ」
リアムは今日使った魔法の数を数えた。ヒーリングライトが二回、ウィルウィンディーンが一回。初級魔法は大体五回位唱えられる筈なので、あと二回は使える。
「ひんやりとする魔法だ。『ブリーザラー』!」
「あ、ひんやりした」
「だろう。サツキの魔力なので効力は弱いが、まあ祐介が言う例の熱中症にはいいかもしれん」
「便利だなあ」
そう言いながら、祐介はエアコンなる機械のリモコンを操作した。風がブオオオッと吹き出した。
「……こちらの方が効力があるな」
「専用の機械だしね」
祐介はそう言うと、テレビをつけて部屋の明かりを消した。すでに少し寒い。
「祐介、少し寒いのだが」
「短パン履いてるもんね。ほら、ここに入るといいよ」
祐介は祐介が掛けていた毛布にリアムを呼び寄せた。氷のダンジョンでパーティーメンバーと身を寄せ合って寝た記憶が甦る。尻の部分が温まり氷が溶け、服が濡れてしまい結局は震えることになった懐かしい記憶だ。
声の低い女性が歌う軽快な曲が流れ始める。父親と母親が、少女の心配をする。素直に羨ましいと思った。師はリアムに優しかったが、親の愛情とは違った。それは仕方のないことだ。
少女が早速雨に打たれるところで、もう涙が止まらなくなった。離れ、もう戻れないと幼いなりに悟っていたあの時と重なった。横を盗み見ると、祐介は楽しそうに見ている。気付かせてはならない。これはリアムの問題だ。
どうしても思い出す、あの日の感情だけが戻ってくる。もう二度と両親の元には戻れぬ。師はただ静かに幼いリアムの手を引き。
「……止めようか?」
は、と気付くと、祐介まで泣きそうな顔になってこちらを見ていた。
「いや……済まぬ、これは違うんだ、その」
「ううん、止めようね。テレビ観ようよ」
微笑んで頭をポンと撫でる。何も聞かない。ただ隣にいてくれる。
堪らなくなった。
「祐介……っ」
リアムは祐介の胸にしがみついた。嗚咽が止まらない。喉が痛くなり。
リアムは大人になってから初めて、子供の様に縋り付いて寄りかかって泣いたのだった。
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