第189話 魔術師リアムの中級編二日目のユメちゃんと社長

 ふん、と馬鹿にする様な一瞥をくれた後、早川ユメは店から出て行った。


 リアムは祐介に尋ねた。


「祐介、地味子とは何だ?」

「気にしないでいいよ、あの人サツキちゃんにはいつもあんな感じだから」


 凍る程冷たかった祐介の声色は、今はいつも通りの暖かいものだ。だがそうじゃない。


「何も気にはしていないが、地味子の意味が分からん」

「さすが強メンタル……」

「それも意味が分からん」

「ですよね。あー、地味子は、地味な女の子ってこと」


 リアムは先程の求愛する鳥の雄の様な雰囲気の早川ユメを思い浮かべ、サツキの顔を思い浮かべ、納得する。


「確かにサツキは全体的に質素ではあるな」

「全然分かってないなあ」

「何がだ」

「自分のこと」

「どういうことだ」

「可愛いよ」

「ぶっ……あ、珈琲がっ」


 珈琲が袖に垂れてしまった。


「あーもう何やってんの。ほら貸して」


 祐介が甲斐甲斐しく珈琲を拭き取っていく。いや、そもそもはお前の所為ではないかと思ったが。


「郁姉だってベタ褒めだったでしょ?」

「う……まあな」

「それに見た目だけが大事じゃないし」

「まあ中身が阿呆では困るは困るな。同じパーティーの剣士はイケメンではあったが、中身がスカスカで確かに困っていた」


 そもそも、あいつの所為で床に大穴を開けることになった。間接的にリアムの死を招いたのはあいつである。だが阿呆過ぎて憎めない、それがアールという男だ。


「でしょ? その点サツキちゃんは頭いいし飲み込み早いし正義感あるしそれに」

「ゆ、祐介、あまりその様に言われてもな」


 は? という顔をして、祐介は拭き終わって手を離した。


「僕、これだけで一日は語れるよ。サツキちゃん、自己評価が偏ってるんだよ。ここはじっくりと僕から見たサツキちゃんの素晴らしいところを」

「祐介、仕事だ、仕事に行くぞっ」


 何だか会社に行く様になってから、祐介はやけにぐいぐい来る様になった気がする。これはあれだろう、木佐ちゃんに対する子供っぽい嫉妬であろう。自分の方をもっと褒めてもらいたいのだ。何とも可愛らしいことではあるが、祐介の前であまり他者を褒めるとこれが更に助長されそうなので、気を付けた方がよさそうだった。


 カップを片付け、祐介の腕をぐいぐい引っ張って会社へと急ぐ。若干抵抗されている気がするが、何故その様に微笑んでいるのか。訳が分からない。


 会社があるビルのエレベーター前に、先程の早川ユメとピシッとしたスーツを着た男がいた。それを見て、祐介が腕を引いてリアムを止める。


「次にしよう」


 あの顔も見覚えがある。この会社の社長、久住くずみしょうだ。年はまだ若く、本来のリアムと同じ位の四十代前半。子供っぽさはなく、男臭い男だ。顔の作りは普通だが、着ている物が上等な物らしく、身だしなみもきちっとしている為そこそこもてるらしい。


「成程、例の不貞を隠そうともしない二人だな」

「うわあストレート」


 ユメは久住社長の腕に自身の腕を絡みつけてキャッキャしている。


 リアムと祐介は、遠目から二人が上へと昇っていくのをただ見ていた。

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