第148話 OLサツキの初級編三日目、いざ帰還

 アルバ蜥蜴のボスがいた場所には、一粒の煌めく石が落ちていた。それをウルスラが拾うと、じっと眺めた。


「何の石かな? 分かんないや」

「鑑定してもらった方がいいんじゃないか?」


 ウルスラとアールが相談している。ユラが近付くと、ウルスラが石をユラに渡した。


「あんた今度鑑定士の所に行くんでしょ? ついでに見てもらってよ」

「分かった」


 すると、ブン、と三人が立つ場所に一際大きな魔法陣が浮き上がった。ドラゴン討伐の際も見た、最深階から一気に地上に出ることが出来る最後の魔法陣だ。ボスを倒すと出現するらしい。


「サツキ!」

「あ、うん。ラムちゃん行こう!」


 こくこくと頷くラムの手を引っ張って二人急ぎ魔法陣に向かう。ミニ怪獣スライムの須藤さんもいそいそとアールの元に向かっていた。


「よし! じゃあいざ凱旋!」


 ウルスラが言うと、一行は光りに包まれ、一瞬の後ダンジョンの外へと立っていた。太陽はほぼ真上にある。


 ユラが首をこきっと鳴らした。


「あーくたびれた」

「ユラ凄いじゃない、あれ上級魔法でしょ?」

「そうだよ、使う機会がなくてさ。ドラゴンスレイヤーの称号はやっぱ凄いな。失敗率が減った気がする」


 やはりレベルが上がる程失敗もするのだろうか。


「そういうものなの?」

「それも一緒に見てもらってくるよ」


 鑑定士。なかなか興味深い。すると、ウルスラが笑顔でサツキに提案してきた。


「サツキも今度見てもらったら? 二つ名が付くかもよ?」

「でもへっぽこ鑑定士に当たるとすげえ格好悪い名前付けられるんだろ?」


 アールがははは、と笑う。ダサい二つ名程恥ずかしいものはない。


「ユラ、ユラが見てもらう鑑定士さんが良かったら紹介して」

「分かった。そしたら今まで付けた二つ名を聞いておくよ」

「お願いします」


 アールはまたガサゴソとポケットをまさぐっている。


「羽根忘れたかも」

「またあ? アールの係って決めたのに全然駄目じゃない!」

「入れたと思ったんだけどなあ」

「バルバイトでいいんだよね? 私が唱えるよ」

「悪いな―サツキ!」


 爽やかな笑顔でアールが頭をかいた。どうもこの人は色々と抜けているらしいことが今回のダンジョンでよく分かった。


「じゃあ今度は俺が」


 すっとユラが寄ってくると、サツキの手を取った。


「ユラならま、いいか」


 ウルスラが少し悔しそうに言う。


「ウルスラ、まだサツキのこと狙ってんの?」


 ユラが馬鹿にした様に笑う。


「狙っ……て、ないもん! ふん!」

「俺はまだ狙いたい!」

「アールは駄目よ! 馬鹿なんだから」

「馬鹿を理由にするなよ! 酷いな!」

「あのー……もういいかな?」


 サツキも段々分かってきた。この人達はこうやって遊んでいるだけなのだと思う。相手にしていると日が暮れる。


「ラムちゃんと須藤さんはしがみついてね」


 サツキがスライム達に言うと、二人共ひしっとしがみついた。


 いざ、帰還。


「フルール・バルバイト!」


 サツキは呪文を唱えた。

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