第133話 魔術師リアム、初級編三日目午後のメイク講座の結果

 郁姉の言動は可笑しかったが、化粧の腕前は確かで説明も分かりやすかった。


「郁姉は、何故化しょ……メイクが得意な……ですか?」


 明らかにおかしな喋り方になっている自覚はあったが、もうこれは訓練を繰り返すしかあるまい。


「私ね、美容師なのよ」


 美容師。何だろうか。リアムが返答に困っていると、ベッドに腰掛け化粧の工程を眺めていた祐介が助け舟を出した。


「美容師って、髪の毛を切る以外にもメイクしたりもするみたいだよ」

「着物の着付けとかもあるしね」


 成程、美容師とは髪の毛を切る職業の者のことを差す様だ。さすがだ祐介。分かり易い。祐介はなかなか機転が利く様で、リアムは内心ほっとした。始めに出会ったのが祐介で良かった。


 郁姉は、朝祐介に話をもらってから買い集めたメイク道具一式をテーブルの上に並べ、サツキが使用していた数少ないメイク道具と見比べ、サツキのメイク道具を端に避けていた。


「色が全然合ってない。暗い色ばっかり。チークもないじゃない。色白だから、少し頬に明るさを出すと華やかに見えるのに勿体ない。これだったら確かに祐介が教えてって言うのも分かるわー」


 畳み掛ける様に言われたが、よく分からなかった。ずっと顔をいじられているし、郁姉だけでなく祐介も近くでじっと見ているし、何だかもう逃げ出したいが鏡をよく見ていろと言われるし、むずむずして仕方がない。


「――よし! 完成! どお?」


 リアムは鏡を差し出され、段々自分の顔だと認識し始めているサツキの顔を眺めた。おお、明るい。これまでのどこか陰気な雰囲気がなくなり、少し下がり気味だった眉毛は真っ直ぐに、垂れ目の弱々しさをアイラインなるもので少し上に見せる様にしてくれたお陰で、何だか元気そうだ。


「お、明るくなったね。いいね」


 祐介も顔を覗き込むと、うんうんと頷き笑顔になった。


「これは会社用ね。どう? 出来そう?」

「が、頑張る」

「写真撮っておこう」


 祐介がスマホを操作すると、パシャッという音がした。説明は受けたが、まだ使用したことのない機能だ。


「で」


 郁姉がにやりと怪しい笑みを浮かべた。


「この胸、このうなじがあるのに爽やか系に留めておくのは勿体ない! ということで! 郁美さんのエキゾチックメイクコーナーの始まり始まりー! パフパフ!」


 よく、分からない。リアムは後ろに下がろうとして、――失敗した。郁姉よ、お前も案外力持ちなのだな。


 リアムの肩をがっちりと掴んだ郁姉の腕は、びくともしなかった。


「祐介!」

「……なあに」

「今からムダ毛処理講座もするから、一旦出ていって」

「あ、うん」


 祐介が立ち上がると、郁姉が止めた。


「ちょおっと待ったあ!」

「今度はなに」

「あんたんちにある鞄に、買ったはいいけど着なかった服を詰めて来たのよ」

「何で」

「地味そうな子はね、服も地味だと思ったから。背は小さいけど胸が異様にでかいから、私のでも入ると思う。取ってきて玄関に置いておいて」


 ニタリ、と郁姉が笑った。

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