第113話 魔術師リアム、初級編三日目は二日酔いから始まった

 目を覚ますと、祐介の部屋にいた。どうやら昨日もまたこの部屋で寝てしまったらしいが、記憶があやふやだった。いつ眠りについたのかも覚えていない。


 リアムは、祐介のベッドを一人で占領していた。部屋を見回すが、祐介がいない。


「祐介?」


 ズキズキ痛むこめかみを押さえつつ、ベッドから起き上がる。風呂場の電気は付いておらず、洗濯機がある方にもいない。


 どこかに出掛けてしまったのだ。


 リアムは玄関の扉の覗き窓を覗く。すると、人影が見えた。祐介だ。それが分かった途端ほっとしてしまい、リアムはその事実に少し動揺した。いかん、こういうのは横に置く、横に置くのだリアム!


 リアムはもう一度覗き窓を確認する。祐介は家の前でうろうろしているが、一体何をしているのか。


 鍵は掛かっていない。リアムはサンダルをつっかけると、そっと扉を開き顔を覗かせた。祐介と目が合うと、祐介がにっこりと笑った。機嫌はよさそうだ。次いで、しい、と静かに、のポーズをする。祐介をよく見ると、スマホなる例の携帯電話を耳に当てていた。


「うん。そう、出来れば今日がいいな。あ、しず姉には絶対黙っといてよ。あの人にばれると面倒だから。うん。分かった。じゃあ後で」


 スマホから顔を話すと、リアムに向き直った。今のは電話という機能だろう。すると、祐介は電話の向こうの誰かと話していたのだ。


「祐介は今日どこかに出掛けるのか?」


 休みの間、ずっとリアムに張り付きだった祐介だ。友人などと会いたいという気持ちもあろう。


 すると、予想に反し祐介がむっとした顔をした。何故そこで怒るのだ、祐介よ。


「僕がサツキちゃんほったらかしにして出掛ける訳ないでしょ。今日は会社の説明するって言ったじゃない」

「ああ、そうだったな。だが、無理してずっと私に付いている必要はないぞ。祐介とて友人はあろうから、友情を育むのも大事だぞ」

「昨日は散々どかないって言ってた癖に」


 ボソ、と祐介が呟く。


「昨日……」


 全くそんな記憶はない。


「実は昨夜の記憶があまり」


 そおっと上目遣いで祐介を見る。こめかみがズキンと痛み、手で押さえた。


「二日酔い? 頭痛いの?」

「二日酔い、なのだろう……大して飲んでいない筈だが」

「だから言ったでしょ、サツキちゃんの身体はお酒に弱いって」


 呆れた様に言われ、返す言葉もない。


「とりあえず中に戻ろう」


 祐介に促され、再び祐介の家に入った。頭をぽん、と撫でてきた祐介が言う。


「あったかいお茶淹れるから、座ってて」

「済まぬな……」

「その後、昨日何したか教えてあげるから」


 にっこりと笑う祐介の顔に圧を感じ、リアムはこくこくと頷くしかなかった。

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