第106話 OLサツキ、初級編二日目の貸切風呂で一人

 荷物を置くと、一行は早速各々風呂に向かった。サツキが向かった貸し切り風呂には鍵が付いていた。至れり尽くせりである。女湯に男が入ろうとすると雷魔法が発動するそうで、


「男だって覗かれたら嫌なのに、何でこっちはそういうの付いてないんだよー!」


 とアールがぶつくさ言っていた。


「覗こうとするのが男ばっかだからでしょ」


 ウルスラが言うと、ユラが「ゴリラ女の裸なんて興味ないね」と言って剣を持ったウルスラに追いかけ回されていた。この一言がなければいいのに、と何ともとほほな気分で二人の様子を見ていたサツキであった。


「じゃあまあ、後で」


 そそくさと風呂場へと入り、バタンと木のドアを閉めた。背中を付け、ズルズルと座り込む。


 何だか、とても久々に一人になった気がした。こちらに来てまだ数日、右も左も分からず一人が不安で、ウルスラにしがみついた。ウルスラはいい人だ、それに元々リアムに好意を持っていた様だから、だから中身がサツキになっても今もこうして優しく面倒を見てくれている。それは非常に感謝している。しているが、拭えないこの違和感は何だろうか。


 ふう、と立ち上がると服を脱いでいく。入り口脇に脱衣場があり、カゴまで何だか日本の温泉の様で、急に涙がぽろりと出た。


 あの大き過ぎる胸も、姿勢の悪さも、へらへら笑うだけしか出来なかったことも、大嫌いな自分だった。今でもあの場所に戻りたいとは思わない。でも、色んな物が只々ただただ懐かしく、こんなカゴ一つ見て泣く位には愛しい。心残りといえば、父のことだけだった。後は全部捨てて構わなかった。でもきっとリアムならしっかりしているみたいだから、父の面倒も見てくれたりするんじゃないか。そう思えた。


 だったら、サツキはもうサツキの世界には必要ない。居場所ももうない。その事実に少し悲しくなっただけだ。


 リアムはどうだろう? 家族がいる様な気配はなく、どうも聞いた話だとひたすら魔導を極めるだけの研究熱心な人だった様だ。パーティーのメンバーにすらいなくても別に、と言われたリアムを憐れに思ったが、サツキとリアムは一緒だ。憐れみなんかリアムに対して失礼だった。だって、サツキだってサツキの世界では求められてなんかいなかったから。


 ウルスラは優しい。アールも先生役となった今はただひたすらいい人だ。ユラは……まあ多少難はあるが、それでもリアムの身体を蘇生させてくれ、何だかんだで魔術についてはユラが教えてくれている。


 でも、本当にここに居てもいいんだろうか、その思いが拭えない。一所懸命呪文を覚えて、パーティーメンバーの役に立つ様に努力したところで、またリアムの様に不要だと言われたら?


 それを考えると、ただひたすら恐怖だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る