第104話 OLサツキ、初級編二日目の風呂
ユラの提案で一気に地下八階の入り口付近にある転移魔法陣から地下十階に飛んだ一行は、目の前に広がる光景に感動していた。如何にもな仕切り。立ち昇る湯気。なんと暖簾まであった。この世界観、どうなっているんだろう。それとも暖簾は万国共通なのだろうか。
「お風呂があるー!」
「そう言っただろ」
サツキが感動していると、ユラがひと言の元バサッと切った。どうもユラは、サツキがフリーズの魔法を掛けてからサツキに対する態度が冷たい。まあ、あれはやり過ぎたかもしれない。でも、仲間に対しあれはないなと思ったのも事実だ。折角仲間になれたのに、意地悪をしてそれでどうしたいのか、サツキには理解不能だった。
「お、ここの風呂、貸し切り風呂があるぞ!」
アールがはしゃぐ。
ダンジョンに風呂、男女に分かれており、更に貸切風呂まで。サツキは今自分が一体どこにいるのか、一瞬見失った。
「サツキ、大丈夫? 呆けてたわよ」
ウルスラが心配そうに顔を覗き込んできた。いけない、くらっとしている場合ではなかった。
「ごめんなさい、これまでのフロアとの差に驚いちゃって」
ウルスラが寄り添う様に肩に手を置いた。気持ちが温かい。
「今日はほぼサツキ一人で戦ってたもんね、疲れもあるんじゃない?」
「確かに、さすがにちょっと疲れちゃったかも」
今日は、『初めてのダンジョン攻略・魔術編〜これであなたも冒険者に!〜』の前半部分を順繰りに唱えてみた。唱えた呪文はかなりの数にのぼるが、それでも魔力が尽きた様な感覚はない。ユラ曰く、リアムに備わる魔力量は半端ない様で、初級魔法をいくら使おうが余裕らしかった。
ドラゴンがいたダンジョンでリアムだけ穴に落ちていったその原因は、リアムが魔力全開で床に大穴を開けた所為だと後から聞き、さもありなんと思ったものだ。ダンジョンの床は、階段を降りるとよく分かるが、かなり分厚い。それを呪文一つで大穴を空けてしまう魔力。聞いただけで驚きだったが、やろうと思えばサツキも出来てしまうのかと思うと少し恐ろしかった。
ユラが面倒臭そうに説明をする。
「十階ごとにある風呂フロアは、敵はいない。宿泊出来る場所もかなり広いし、焚き火じゃなくて釜戸がある」
「さすが初級ダンジョン、至れり尽せりね」
ウルスラが頷く。初級ってそういう意味なんだろうか。何か違う気がした。
アールがサツキに言う。
「貸し切り風呂なら、サツキも一人で入れるからゆっくり入れるんじゃないか?」
「そうか、一人なら男だろうが女だろうが関係ないもんね!」
「なんだ、胸だけが楽しみだったのに」
サツキは無言で杖をユラに向けると、ユラが走って逃げた。
やっぱりあいつだけはむかつく。
サツキは溜息をついたのだった。
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