第66話 OLサツキの初級編初日の夕餉前

 地図で確認した安全地帯の境界線には、怯える色とりどりのスライム達が震えながら固まっていた。


「俺ら、もしかして怖がられてる?」


 アールがそいつらを指差しながらウルスラに尋ねる。


「まあ、ドラゴンスレイヤーの称号を手に入れちゃったからね」

「称号?」


 サツキが聞くと、ウルスラが笑って頷いた。


「目には見えないけどね、鑑定士か、後はモンスター達は分かるらしいわ」


 所謂ゲームのステータス欄の様なものだろうか。


 ウルスラが少し憐れむ様にスライム達を見回した。


「私達のことがどう映ってるんだか知らないけど、かなり怖がられてるのは分かるわ」

「でも、そうしたら何で入り口で襲ってきたのかな?」


 あのスライムはやる気満々だった。


「自己評価が間違ってる奴ってのはどこにでもいるもんなんじゃない?」


 ウルスラが、アールを見ながら笑った。


「今俺のこと見なかった?」

「気の所為じゃない?」

「そっか、ならよかった」


 これで納得してしまう辺り、少し憐れみを誘った。


 ユラが地図を広げながらスライム達を見る。


「そうか、戦う意欲のないモンスター達が俺達の進んだ道を後退していくと、丁度ここに溜まっちゃうんだな」

「つまりは袋の鼠」


 きらん、とウルスラの目が怪しく光る。


「見てよ! 緑の奴もいるわよ! あれもまた爽やかな味でさっぱりして飲みやすいのよね!」


 完全に飲み物扱いである。


 すると、アールが震えるスライム達の前に突然立ち塞がると、叫んだ。


「やめてやれよ! 今日の分は足りてるだろ!」

「……はい?」

「とうとう頭がおかしくなったか」


 優しさのかけらはどこにもない。


「違うよ! 不要な殺生は必要ないって言ってんの! 見てよ! こんなに震えて、可哀想に!」


 ユラが冷たい目をしたまま言う。


「スライムっていつも震えてない?」

「うるさいうるさいうるさい! こんな殺しても経験値にならなさそうなのを無理に倒さなくてもいいじゃないか!」


 アールは真剣だ。


「どうしちゃったの、アール」

「同族相憐れむってやつじゃないか」


 二人は仲間だというのに本当に容赦がない。サツキはチラッとアールの背後で固まっているスライムとアールを見た。


「ん?」


 何だろう、あのピンクのもやみたいなのは。その怪しげなピンク色が、アールとスライム達をふんわりと繋いでいる。


「ねえウルスラ、あのピンク色の、何?」

「へ?」


 するとユラがすす、とサツキの横に寄ってくると、目を細めた。


「ウルスラは魔力ないから見えないと思う。……ありゃあ……まじか」

「え、ちょっと何、説明しなさいよユラ」

「何!? 俺に何が起きてんの!? あ! 何かピンク色!」


 アールが焦り出した。自分からピンク色のもやが出ていたら、そりゃあ驚くだろう。だがその前に、アールに魔力があったのが驚きだった。


「あ、あの、ユラはあれが何か分かるの?」


 ユラは勿体ぶった様に頷き、断言した。


「ありゃあテイマーの能力だよ。間違いない」

「て、ていまー?」


 サツキの頭に、大量のはてなが浮かんだ。

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