第57話 魔術師リアム、初級編はスムーズ

 洗濯物を干した後、祐介は通貨の説明、サツキの財布の中身の説明、電化製品の仕組、電気、ガス、水道などのインフラと呼ばれるものの仕組みから、ゴミの分別までをざっと説明してくれた。


「ばーっと説明しちゃったけど、分かる?」

「元々魔術師に必要なのは情報の理解及び分類、そして紐付けだからな、大元が分かれば容易い。だが、そのいんたーねっとなるものの仕組みはいまいち分からん」

「僕も何となくで使ってるからなあ」


 リアムはテーブルの上に置かれたガラケーを手に取る。


「これを明日開くことが出来たら、メールという仮想の手紙のやり取りも出来る、声も飛ばせるということだな」

「そうそう。理解早くて助かるよ」


 祐介がふわ、と笑った。リアムにきちんと伝わるか不安に覚えながらも、必死で説明してくれたのだろう。感謝だ。


「要は電気や電波というものを魔力に置き換えればいいのだ。魔導式の道具には魔力が込められている。それがこの世界では電気だということであろう?」

「仰る通りです」


 すると、リアムの腹がぐう、と鳴った。祐介がふ、と笑ってリアムの頭に手を置く。


「もう昼だ。何食べたい? て言っても分かんないか」


 祐介はやたらとリアムの頭に手を置く。チビと言われている様で何とも言えない気分になった。


「祐介は自炊はしないのか? こちらでも、外食ばかりだと高くつくのではないか?」

「簡単なのはするけどね、一人だし、買っても作ってもあまり変わらないっていうか」

「これからは二人ではないか。費用も嵩むだろう。昼は外食でもいいが、夜は何かしら調理をした方が……どうした?」


 祐介が、絨毯に座り込んでベッドに顔を突っ伏していた。具合でも悪いのか。朝と同じ様に、前髪を掬って顔を確認してみる。


 片目と目が合った。


「何だ? どうした?」

「いえ、ちょっと胸を鷲掴みにされた気分で」

「? 心の臓に病でも抱えているのか?」

「いません。健康です」

「ならば早く昼飯を食おう」

「はい」


 ふう、と小さく息を吐き祐介が立ち上がった。ハンドバッグに財布と携帯と鍵を入れて肩に掛け、玄関に向かうと。


「待って」


 祐介がリアムの手首を掴んで引き留めた。痛い。


「何だ? 私の腹はもう限界なのだが」

「先に出ないで」


 祐介がリアムの横をすり抜け、先に玄関に立つ。覗き窓に目を当て、確認を始めた。


「これからは、僕が先に出る。朝会社に行く時も、僕が迎えに行く。それまで開けないで」

「例の羽田を警戒しているのか」


 振り向いた祐介が頷いた。


 迂闊だった。魔術があればついどうとでもなると思ってしまうが、今のリアムはろくに使えない。そのことをつい忘れてしまうのだ。


「不自由かもしれないけど、一人で行動しないで。お願いだから」


 じっと見つめられ、懇願する様に言われたリアムは、つい笑顔になってしまった。笑う場面ではないだろうに。


「何、その笑い」


 案の定祐介が拗ねる。


「祐介は優しいな」

「それはどうも」


 祐介は、リアムがサンダルを突っ掛けるのを待つと、手を取った。

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