第44話 OLサツキ、調子に乗る

 翌日。


 客人をソファーで寝かせる訳にはいかないと言い張ったがウルスラには聞き入れてもらえず、結局サツキがベッド、ウルスラがソファーで寝た。


「ウルスラごめんね、身体痛くならなかった?」


 済まなさそうにサツキが謝ると、ウルスラが屈託のない笑顔で笑った。


「なーに言ってんのよ、こんなのダンジョンでの雑魚寝に比べたら天国よ、天国」

「ダンジョンってやっぱり雑魚寝なんだ……」


 ウルスラの目が輝く。


「雑魚寝はまあ正直あれだけど、何てったって最高なのがダンジョンで捕まえたモンスターの試食よね!」


 食べるのか。そういえば、ラノベとか漫画とかでダンジョン飯とか何とかを目にしたことはあるが。


「黄色のスライムを白ワインで割ったパチパチスライムワインも美味しいしー」

「へ、へえ」


 スライムは飲み物か。パチパチってことは電気系かもしれない。


「あー、今度さ、魔法の練習も兼ねて初級ダンジョン行こうよ! もう暫く生活には困らないし、サツキも少しずつ呪文を覚えたらいいんじゃない? 元はリアムだから魔力はたっぷりあるし。それにモンスター飯、うふふ」


 どう見てもウルスラの目的はご飯の方な様だが、呪文を覚えていくというのには賛成だった。知っておいて損はないし、ウルスラの助けにもなるだろう。


「賛成! 行こうよウルスラ!」

「よーし! じゃあアールとユラと一緒に賞金の山分けをして、それからどうするか確認しましょ!」

「うん!」


 何だか楽しくなってきた。ここにはお局様もいなければ、セクハラ社長も、いつもサツキが帰るまで会社に残ってこちらをニヤニヤ見ている営業のおっさんもいない。


 自由だった。


 ウルスラが、実に楽しそうに提案する。


「ねえサツキ、折角だし人に囲まれたくないし、イルミナで変身していってあいつらを驚かさない?」


 わくわく、と顔に書いてあって、可愛い。サツキは微笑んで頷いた。


「いいよ、今度は何になってみようか」


 ウルスラは楽しそうにうーん? と考える。


「サツキはサツキにして私の服を着て、私をサツキの知ってる背の高い男の人にしてみせてよ! そうしたらサツキの服を着ていけば交換出来て荷物にもならないし!」

「ぎ、ギルドで着替えるの?」


 あは、とウルスラが笑う。


「ちゃんと更衣室もあるわよ。防具も売ってるからあそこ。商売手広いのよねー」

「そっか。なら誰にしようかな……」


 父は駄目だ。サツキと一緒で全てがこじんまりとしている。後はよく知ってる高身長の男性など……


「あ! 一人いた!」

「えーなになに? サツキの彼氏とか?」


 サツキが慌てて否定する。


「ちっ違うよ! 職場の同僚でお隣さんなだけ!」

「アール達みたいなもんか」

「そうそう」


 ウルスラはまだ寝巻きのままでゆったりとした服だ。これならこのままいけるだろう。


 大して仲良くもない男性のことを思いながら呪文を唱えるのは正直少々恥ずかしいが。


 少し調子に乗ったっていい気がした。


「イルミナ! 山岸祐介!」


 サツキは呪文を唱えた。

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