第18話 治癒魔法をかけただけなのよ・・・。
「探しましたよ。お嬢様・・・」
う~、ぞくぞくするわ~。
何故か分からないけど、ミラには逆らえないのよね・・・でも、照り焼きと魚介類のサンドは、全部収納魔法に収めたわ!
「良かったね。アリアルーナさん、使用人の人が見つけてくれて」
エレノアは、満面の笑みで
「うん、良かったね」
エレノアのパパは、ホッとしたように
「えぇ、良かったです」
ヒューゴはニコニコと
「おう!良かったな、お嬢ちゃん」
そして、おじ様がニカッと笑うわ。
みんな、小脇にガッツリと抱えられた私の格好を無視して・・・。
良くはないわよ!帰ったらどうなるのか・・・考えただけでもゾワゾワするわ。あぁ~、みんなに家を脱け出した理由を聞かれたら・・・でも、お祭りに行きたかったから!で、誤魔化せられないかしら?エレノアとヒューゴの出会いを、この目で見たかったなんて、口を裂けても言えないもの!もし、そんな事を言って、何故二人が出会うのを知っているんだなんて聞かれでもちゃって、ここは乙女ゲームの世界だからとか言ったりしちゃったら・・・うん、珍獣扱いで済めば良い方だわ。
でも何故、私がここに居るのが分かったのかしら。恐るべし、ミラ・・・。
「では」
「もう、帰っちゃうの?」
ミラが早速、私を小脇に抱えたまま帰ろうとすると、エレノアが寂しそうな顔をするのよ。
あぁ~、そんな顔しないでほしいわ。
「えれのあさんがとまっているやどは、どこかしら?」
「やど?」
エレノアが、可愛い顔でぽかーんとするの。いつまでも見てられるわ。
「えれのあさんが、おうとにきてとまっているところよ」
「え?えーと・・・」
「・・・『ドラゴンの止まり木』だよ」
エレノアは宿の名前を覚えていなかったみたいで、代わりにエレノアのパパが答えてくれたわ。
しどろもどろになるエレノアも可愛いわ~。
「ごほんっ。『どらごんのとまりぎ』に、やどをとっているのね。それじゃ、あしたかあさってどちらか、つごうのいいひはないかしら?」
でも、宿の名前が『ドラゴンの止まり木』って、体の大きなドラゴンが止まれる木なんてあるのかしら?
「明日はダメなの・・・連れてきてくれたおじさんの家に行かないとならないの」
「そうなんだ。ちょっと、お呼ばれしているんだよ。明後日なら大丈夫かな」
お呼ばれ?王様に謁見ではないのね・・・それに、連れてきてくれたおじさんって誰かしら。
「わかりましたわ。そのやどに、あさってのごぜんちゅうにうかがいますので、わたしといっしょにおまつりのさいしゅうびをまわりましょう?」
「え、良いの!?嬉しい~待ってるから」
「はい。ではみなさん、ごきげんよう」
こんな姿で締まらないけど、挨拶はきちんとしないといけないわよね。
その明後日になったわ。
あの日、家に帰ったらカオスだったのよ。
マリアンヌママは、玄関で私が帰って来るのを待っていたらしく、着いて直ぐにへばりついてきて、泣きながらグチグチ心配だったと言って、食事の時もトイレに行く時もお風呂に入る時も寝ている時も、ずっと離れなかったわ。それに対してハンフレイパパは、マリアンヌママと違って冷静な感じで出迎えてくれたのだけど、「鎖でも繋いでおくか、それとも位置特定の魔法をかけておくか」と、本気で準備しようとして、それは止めてとガチに謝りたおして説得したのよ。そこにカーティスが、「僕も行きたかったな~次は一緒に抜け出そうね」と、ハンフレイパパの怒りに油を注ぐようなことを、にこやかに言うのよ~ハラハラしたわ。ミラは・・・私の口からは、とても言えないわ。これから(無断で)外出する時は、行き先を書き置きをして行こうと心に決めたの。
今日は、ちゃんと言って来たわよ。カーティスもミラも、誘ったジュリアンナも一緒だもの。今回は、ルーカスたちは誘っていないわ。何かあると一緒だから、たまに別行動するのも新鮮で良いと思うの。
「ようこそいらっしゃいました、『ドラゴンの止まり木』へ」
濃紺と赤のバイカラーの制服を着た男性が、宿の扉を開けて出迎えてくれたわ。
「こんにちは。わたし、ありあるーな・ふぉーさいすともうしますわ。こちらにとまってらっしゃる、えれのあ・ふろーれすさんはいらっしゃいますか?」
『ドラゴンの止まり木』って、上位貴族が泊まれるほどの大きな宿屋だったのよ。ちょっと名前がねぇ、厳ついから家族経営の宿屋だと思っていたの。でも考えてみたら、エレノアも貴族なのよね。
「アリアルーナ・フォーサイス様ですね。今、確認してまいります」
そう言うと彼は、ロビーラウンジに私たちを案内して去っていったわ。
そして待ってる間、ゆったりとしたソファーに腰を掛け、優雅に出されたお茶をいただいていたら、エレノアが嬉しそうに駆け寄ってきたの。その後ろからエレノアのパパもいらっしゃったわ。
「アリアルーナさん!こんにちは。来てくれありがとう!」
「えれのあさん、こんにちは。やくそくしたもの!とうぜんのことですわ」
「こんにちは。来てくれて、ありがとうね。エレノアが凄い楽しみにしてたんだよ」
「こんにちは。それは、うれしいですわ!わたしもたのしみでしたもの」
「えへへへ~」
照れて笑うエレノア、最高だわ!
「あ、しょうかいしますわ。わたしのあにのかーてぃすと、おともだちのじゅりあんなさまですわ」
「こんにちは!わたし、エレノア・フローレスって言うの」
「こんにちは。エレノアのお父さんで、ジェイデン・フローレスだよ」
「こんにちは。アリアルーナの兄のカーティス・フォーサイスです」
「じゅりあんな・べねでぃくとですわ」
ジュリアンナが裾をちょこっと持って、カーテシーをする姿がとても可愛いの~。
さぁ!挨拶は終わったので、町に繰り出しましょう!
「ひゅーごさんは、きょうはいらっしゃらないの?」
「なんか、用事があるみたい。残念よね~」
「ねぇ、ねぇ、ルーナ。なんか美味しそうなのがあるよ」
「えっ!どれなの?ぜんぶおいしそうで、わからないわ!」
カーティスがどれを指しているのか分からないけど、全部が美味しそうで困るわ!
「すごいわ!みたことないたべものばかりですわ!!」
ジュリアンナは瞳をキラキラさせて屋台をキョロキョロ見ているわ。可愛い!
「本当だ、美味しそう!」
エレノアもニコニコと、嬉しそうに屋台キョロキョロ見ているわ。こっちも可愛い!
「こらこら、みんなはぐれないでね」
そんな、わちゃわちゃしながら歩いていると、男の人同士が言い争っている声が聞こえてきたわ。あ!あそこ、少し先に人だかりがあるわね。そこから言い争いと、それを止める複数の声が聞こえてくるみたいだわ。
「きゃー!」
あら?悲鳴だわ。どうしたのかしら?
ポーションとか、治癒魔法とか、言っているわね。殴り合いになって、誰かケガでもしたのかしら?
気になったから、人だかりを掻き分けて中の様子を見てみると、30才くらいの男の人が腕を押さえて踞っていたわ。その傍らに7才くらいの男の子が、男の人にすがりついて泣いていたの。
「大丈夫かい?」
「大丈夫ですか?」
エレノアのパパとミラが駆け寄って、その男の人を介抱しようとするが、二の腕から先が無くなっていたの。
「エレノア、治癒魔法できるかい?」
エレノアのパパがそう言うけど、エレノアは困ったように首を横に振るわ。
「朝、魔法使っちゃったの・・・」
「・・・ちゆまほうなら、わたしがやりますわ」
エレノアの、そんな悲しそうな困っている顔をさせたくないもの!
「いや、でも・・・」
なんか、エレノアのパパが言っているけど、痛そうだからちゃっちゃっと魔法をかけちゃいましょう!
ん~、手術した傷とか、ケガした傷とか、皮膚と皮膚がくっついて、治っていくわよね・・・それを応用して細胞の再生するように、腕を生やせば良いのかしら。どれどれ・・・。
おぉ!出来てく出来てく~・・・ヨシッ!終わったわ。ちゃんと綺麗に腕が生えて、良かったわ~。
あれ?なんか周りが静かだわ。
あれれ?なんでみんな、鳩が豆鉄砲撃たれたような顔をしているのかしら?
え、みんなどうしたの?私、治癒魔法をかけただけよ・・・。
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