第6話 ちょっと照れるけど折角だから子供らしく遊ぶわ!
あの事件から約1年が経ったわ。1才と9ヶ月になったのよ。最近やっと、普通に歩けるようになり、どこでも行けるようになって嬉しいわ。でも、普通に歩いているのに、みんなが微笑ましそうに見ているのは何故かしら?
よちよち・・・クルっ。
普通に歩いていると視線を感じ、振り向くとみんなが微笑ましそうに見ているわ。そんなことを繰り返すことが、最近多いの・・・。
「よちよち歩いて、可愛いな~」
「よてよてしぃっない!にょよ!」(よちよちしてない!のよ!)
「舌足らずも、可愛いな~」
「しちゃっちゃりゃぬにゃないみょにょ!」(舌足らずじゃないもの!)
もう!そんなこと言ってくるのは、あなただけよ!!
そんな感じで私の後ろを付いて構ってくるのは、魔法省の魔法団団長のナッターズ侯爵なのよ。夜の闇のような黒髪に満月に似た黄色の瞳、彼の家系は、代々魔法団の団長をしてきたらしいわ。そんなナッターズ侯爵は、魔法にかけては敵う者はいないと言われる程で、ずば抜けて魔法に長けていて、向かうところ敵なしなのだと言われているわ。そして、かなりの魔法馬鹿なのだそうよ。
それはそうよね、魔法をみんなで教わりたい!と言ったルーカスに、最初は魔法団の忙しくなさそうな一人を付けるはずだったのよ。それを、無理矢理自分を捩じ込んできたのだから・・・。
それは何故かって?偶々王宮に行った私が、滅多に王宮に現れないナッターズ侯爵に遭遇しちゃったのよ。その時、無意識に魔法を使っていたの。それを見つかっちゃったのよ!
そのナッターズ侯爵は、数少ない魔力の流れが見える人物だったの。努力の賜物だって言っていたわ。常に魔法を使っているけど知らなかったのよ。
それで、まだ魔法どころか魔力の使い方も教わっていない幼い子供が何故?それも無詠唱?って、興味を持って付き纏われるようになったのよ。それを王宮に行かないようにしたり、手紙での魔法団へのお誘いも代筆で丁寧にお断りしたり、スルーしていたのだけど、ルーカスが魔法をみんなで教わりたい!と言ったところに目を付けたみたいだわ。一緒に魔法を教わる一人が、私の兄であるカーティスだと知ってね・・・。
だから、みんなが家に来て魔法を教わることになって、魔法を教わらない私も一緒にその場にいることになったの。普通、魔法は6才から徐々に教わっていくらしいのよ。まだ4才くらいでは魔法は全然教わらないのに、何故許可を出しちゃうのよ。王様と王妃様は!
あ!朗報よ。ナッターズ侯爵の息子が、攻略対象者だったの!!デュラン・ナッターズって言うのよ。ナッターズ侯爵が彼と髪の色も瞳の色も家名も同じだから、もしかして!?と思っていたけど!もう、驚きよ!魔法を教えてくれる初日に急遽、家にデュランを連れてきたの。それについては、グッジョブよ!ついつい、サムズアップをこっそりしてしまったわ。
もう彼は、ゲームの中のように魔法にしか興味ないのよ~。私が、世間話をすると何を言っているか分からないって言われ話が途切れるけど、魔法の話をすると私の言っていることも聞き取れるし、饒舌になるのよ。
え?『エレノア~聖なる導きを貴方と共に~』の世界で確定かって?もう、どっちでも良いのよ~。もし『エレセイ』の世界だったら、それはそれで楽しもうって、事件の後に決めたのよ。自分のやりたいことをやろって!あんなことがまたあって、助けられず後悔するなら、私の出来る限りで助けるし、回避するために奮闘するわ。
だって、私が介入したくらいで、『エレセイ』の世界が別物になる訳ないものね。
で、今日の魔法のお勉強会は家の外でやるのよ。だから、おもいっきり遊ぼうかと思っているの!折角だから子供らしく遊ぶわ!!変に転生前の記憶があるから、なんかちょっと本気で遊んじゃうと照れちゃうけど・・・。
もう、今日の遊び方も決めていて、みんなと相談しといたのよ。
「みんな、位置につけ!」
ルーカスが声をあげると、子供たちみんなが間隔をとり配置に付くわ。各々、木の影や枝の上に隠れるの。もちろん、私も必死に駆けて木の影に隠れるわ。
「・・・発射!」
一斉に詠唱しながら、魔法で水鉄砲をナッターズ侯爵に向けて発射するの。私は、もちろん詠唱無しで行ったわ。
これ、以外に手加減が難しいのよ。強いとケガさせちゃうし、弱いと届かないし、良い魔法の練習になると思うわ。
ナッターズ侯爵は、水鉄砲を受け終わってびしょ濡れになっても、動かず立ったままだったの。彼がどう動くのか、じっと私たちは隠れて待つわ。
「じゃ、反撃するよ」
彼は呪文を言わず、両手を上に翳すとそれを勢い良く下ろしたわ。すると、ピンポイントで各私たちの所だけを狙って、滝のように水を頭上から落としたの。そして私たちは、びちゃびちゃのずぶ濡れの濡れ鼠となってしまい、瞬殺で戦闘不能にさせられたわ。
下着までびしょ濡れだわ・・・。
「は~い、乾かすから戻っておいで~」
その言葉に、私も含め、みんなが服を絞りながら近寄っていくわ。そして、ナッターズ侯爵の周りを囲むように辿り着くと、水が蒸発させ直ぐに暖かいフワッとした風が舞い起こり、あっという間に髪も服も乾いてしまったわ。
「誰が考えたのかな?」
私が勢い良く右手を上げたの。
「そっか、力の調整を学ぶには良い線ではあるけど、ただ木など元からある物に隠れるのではなく、魔法で壁を作っても良いよね?」
あ!っと、私は大きな口を開けてしまったわ。
「でも、その無詠唱は相変わらず凄いね。魔法がいつ発動するか全く分からないよ。それに力の加減も量も完璧だ」
ナッターズ侯爵が、私の頭を撫でるの。
なんか、申し訳ないわ。意識してやっていないんだもの。最初から出来ちゃってたのよね・・・。
「ルーカス殿下の指揮は良かったよ。でも、魔法の勢いが足りないね。私の所まで届いてなかったよ。殿下は、慎重になりすぎるんだよ」
ルーカスは、彼が言うことを真剣に聞いて頷くわ。
彼って王族だからか、元々普通の金髪や金瞳と違ってキラキラした金髪金瞳なんだけど、驚いたことに外に出ると太陽の光が反射して更にキラキラ虹色に変わるの!ゲームだと背景にキラキラの効果ある感じだったけど、実際だとこんな感じなのね~。不思議だわ。それに彼、優しすぎるのよ~。いや、優しいというか、お人好しと言った方がぴったりね。民の声に耳を傾けると教えられているからか、人の話を聞いてくれるのだけど、人の善し悪しの判断が甘いのよね。演技が見分けられないの!わざとらしいじゃんソレ!とか、バレバレだよね~とか、でも気付かないのよ~。ぬくぬくと人の悪意無く育つのは良いけど、少しは悪意に触れないと温室育ちじゃ足元掬われるわ。あ、そこのところ、アンドリューとエドワードも似た感じよ。困ったわ~。
「アンドリューは、狙いが定まっていて良かったよ。でも、ルーカスとは逆に勢いが強すぎるね。毎回、同じくらい強さだから、強弱を付けられるように意識しようね。勢いだけでは敵は倒せないよ。量も多いから調整出来るようにしよう。また魔法を放つ時に、魔力が無くて放てなかったとはならないようにね」
悔しそうに分かったと、アンドリューは頷くわ。
彼は脳筋だと元の世界では言われてたけど、一緒に遊ぶようになって分かったわ!説明して教えるよりやってみて教えた方が理解できる、単純で素直で人種なんだってことがね。裏表関係なく素直に受け止めちゃうのよね。冗談を言っても、何故そのような意地悪をするんだとか本気で受け止めるのよね。だから、ゲームでも変に一途っていうか、勘違い正義を振りかざしていたというか・・・残念だったのね。もっと、頭を柔らかくしてあげないとね。
「エドワードは、一定でブレずに真っ直ぐキレイに当ててきたね。それは良いんだけど、ただ当たっているという感じで強さがないね。別にキレイじゃなくても良いんだよ。誰に見せるわけでもなく、敵を攻撃するためなのだから。目的が攻撃じゃなければ、とても素晴らしいよ」
エドワードは、キレイじゃなくても良いんだと驚いて納得しているわ。
彼は、真面目で完璧主義者なの。なんでも、白黒をハッキリさせる感じなのよ。公爵の嫡男として厳しく育てられているのもあるけど、王家を支えるということにプレッシャーを感じているみたいのが原因ね。ゲームでも、それを癒すことが攻略の近道ってあるのよ。ま、堅物ってことよね。それを崩して、グレーもあるって教えてあげないとね。
「カーティスは、アリアルーナと同じで強さも量も完璧だね。もっと、難易度を上げても良いかもね」
「えへへ。まいにち、アリアルーナとれんしゅうしてるの」
ナッターズ侯爵の言葉に、カーティスは嬉しそうにそう返すわ。
カーティスは、本当に自信が付いて前と見違えるくらいになったわ!1番伸び代が良いわね。
「デュランは、耐久が凄いね。当たっている時間が1番長かったよ。でも、そのせいなのか、当たる量が徐々に少なくて細くなったね。量をもう少し増やしてみよう」
コクコクと頷くデュランは、書くものを取り出してメモをしているわ。
魔法以外の勉強はメモもしないのに、彼は魔法のこととなるとダメなのよ。何日も自分で食事をしなくなるから、使用人が食べさせるしかないんですって。父親のナッターズ侯爵も同じなんですって、ハンフレイパパが言っていたわ。こういう人達を天才と言うのね。
「じゃ、続きだ。今度は、的にウォーターショットを当ててみよう」
「「「「「「おう!」」」」」」
みんなが一斉に右手を振り上げたわ。
ナッターズ侯爵って魔法を教えるの上手いわ!遊びながら教えるのなんて、小さい子でも嫌々教わらず楽しみながら出来るものね。天才って教えるの下手だって言うけれど、そうじゃなかったのね。
その後、的当てを楽しんで、みんな帰っていったわ。
あっあのね、今度ね。エドワードの妹、ジュリアンナの誕生日パーティーにお呼ばれされたの!ジュリアンナとは初めましてになるのよ 。楽しみだわ~。
ドレスも仕立てているの。1回しか着ないから勿体ないと思ったのだけど、相手に失礼よというマリアンヌママの言葉に納得したわ。色もデザインも自分で決めたのよ。だって、見せられたドレスのデザイン画が、あり得ないくらい袖も裾も膨らんでいて、埋もれてしまうわ!って思ったの。でも、私がデザインしたドレスのことは、今は詳しくは話せないわ。当日まで楽しみにしていてね!
あ!エドワードの甘やかしで、ジュリアンナが我が儘な勘違い女になってしまう傾向にあるのか、確認しないといけないわ!!
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