バディという謎スキルしか神授されず魔力もなく、王女との婚約を破棄され公爵家を追放され平民に落とされ、冒険者になったら囮にされました。
克全
第1話:嫌な予感
俺、バルドは転生者だ。
転生当初は赤子で、何が何だかわからなかった。
でもしばらくして、前世の記憶を残したまま生まれ変わったのだと分かった。
前世の記憶を残して生まれる子供の話しは聞いた事があった。
だが大抵は、成長と共に前世の記憶は消えていくとも聞いていた。
せっかく前世の記憶を持って生まれ変わったのに、それを失うのはもったいない。
普通に考えれば未来に生まれ変わるから、前世の記憶はほとんど役に立たない。
だけど、歴史や計算など、学校で役に立つ記憶もある。
学校の成績が良いと、自分が選べる仕事の選択肢が増える。
だから、記憶を失わないように、覚えている事を必死で反復して思い出した。
筆記用具を用意してもらい、書きとめようともした。
だが、直ぐにそんな事を無駄だと分かった。
なんと、俺は、まるでアニメや小説のように、異世界転生していたのだ。
しかも、勝ち組といえる公爵家の長男に転生できていた。
試練を与えるような、両親の性格が悪い事もなく、普通に愛されていた。
国が乱れている事もなかったし、二年後に生まれた弟との仲もいい。
一族の中に公爵の位を狙うような邪悪な者もいない。
公爵を傀儡にしようとするような奸臣も、俺の確かめた範囲ではいなかった。
このまま祖父や父の跡を継いで公爵となり、安楽に暮らせるかもしれない。
そう考えた事もあったが、世の中そんなに甘くないと自分を戒めた。
俺がそんなに運がいいはずがなく、絶対に何か悪い事が起こると思った。
その時に上手く対処できるように、俺らしくもない努力をした。
前世の俺からは考えられないくらい、辛く苦しい公爵教育に耐えた。
祖父や父、傅役が怠けさせてくれなかったのが一番の理由だけどね。
だが俺の不安が正しかった事は、八歳の時に明らかになった。
この世界の人間は、十四歳に神授の儀式があると聞かされたのだ。
その神授の時に与えられたスキルによって、人生が決まるというのだ。
公爵家の長男だから、よほど酷いスキルを神から与えられない限り、人生が変わるような事はないが、最悪の場合は公爵位を継げないかもしれないと言われた。
だから常に神を敬い、神の教えに反するなと言われたのだ。
この時、俺は、絶対に酷いスキルが与えられると確信した。
どう考えても公爵家の長男に生まれたのは、落とす前のフリである。
好い目にあわせて有頂天にさせておいて、その後で地獄に突き落とすのだ。
神授のスキルの話しを聞いてからは、地獄に備えて尚一層勉学と武術に努力した。
公爵家が雇える最高の指導者に徹底的に鍛えてもらった。
当然だが、神を敬い祈り倒していたのは言うまでもない。
十二歳になって、俺の悪い予感は確信に変わった。
事もあろうに、俺にシャルロッテ第一王女との婚約話が持ち上がったのだ。
長年子供に恵まれなかったウィリアム王が、六二歳でようやく授かった子供だ。
できるだけ神の教えに逆らわないように、離婚することなく次の妻をめとる。
子供を産めない王妃を次々と暗殺していたという悪評のある王だ。
シャルロッテ第一王女を授かるまでに、六人もの王妃が病死しているのだ。
そこまでやってようやく授かった王女だから、溺愛しない方がおかしい。
冷酷非情な王に溺愛されて育ったシャルロッテ王女の性格は……
俺は必死で婚約解消をしてもらえるように父上と御爺様に頼んだのだが……
「バルド、下手に婚約解消を口にしたら、王家と公爵家の戦争になる。
王家からの婚約話をこちらから断るのは、とても不敬な事になるのだ」
父上にそう諭され、御爺様には厳しい警告を受けた。
「バルド、よく聞け、婚約解消の噂がたつだけでもお前が暗殺されかねないのだぞ」
直接国王や王女と接する機会が多い、公爵家当主の御爺様にまでそう言われたら、俺にできる事など何もない。
もう俺にできるのは、粛々と運命を受け入れる事だけだった。。
ここで俺が逃げだしたら、弟のゲイリーが王女の婚約者にされる可能性が高い。
俺の事を「兄上、兄上」と慕ってくれるゲイリーに、シャルロッテ王女という損籤を押し付ける訳にもいかないので、密かに神に祈るだけにした。
(神様、どうか性悪な人間を皆殺しにしてください。
もし国王と王女が噂通りの悪人でなければ、殺さなくても結構です。
ですが国王と王女が極悪非道なら、どうか天罰をくだしてください)
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