第16話 ソフィーちゃんのその後
翌日はパンを売りに広場へ行くことにした。受付を済ませると、指定された場所は前回と同じ場所だった。隣も前回と同じ刃物屋さんだった。今回は特に前回好評だったチョコクロワッサンを200個準備した。アンパンは100個だ。さあ、本業の商人としての活動だ。訓練所の主などとは呼ばせないぞ。
今日も大繁盛だった。隣の刃物屋さんが次々とお客さんを紹介してくれるもんだから、てんやわんやの大忙しだった。刃物屋さんにはパンをどっさりプレゼントして差し上げた。すごく喜んでいた。
さあ、帰ろうかなと思って片付けをしていたら声を掛けられた。
「あの、少しお時間よろしいですか?」
「すみません、売り切れました。」
そう言って振り返ると、そこにいたのはソフィーちゃんだった。
「ああ、ソフィーちゃんじゃないか。昨日は大変だったね。」
「はい、おかげさまで。怪我まで治して頂いて、本当にありがとうございました。」
怪我治ったのか。いや実はポーションって本当に効果あるのかなって半信半疑だったんだよな。自分で飲んで試してみようかと思ったのだが、あの得体のしれない高価な液体を意味もなく飲むのは躊躇われた。正直なところ、ソフィーちゃんに飲ませたのは効果があるのか実験的な意味もあったのだ。
「ああ、気にしなくていいよ。今日は買い物かい?」
「いえ、その・・・これからどうやって生活しようかなと考えてたら、ルノさんのお姿が見えたので」
「まあ、そこに座りなよ。ほらチョコクロワッサン食べるか?」
チョコクロワッサンと野菜ジュースを出してあげた。一瞬でチョコクロワッサンが消えた。お腹が空いてたのかな?アンパンも出してあげたらそれも渡した途端に消えた。
野菜ジュースのストローの使い方を教えてあげて、話を聞いていると彼女は冒険者活動をやめるつもりらしい。まあ、あんな経験をしたら続ける気も起きないかもな。そもそも、彼女は故郷の村にいても仕事がないから、街に来て仕方なく冒険者登録をしたということだ。うん、なんで商業ギルドに登録しなかったのかな。
「商業ギルドの従業員用のギルド証を取得すれば、仕事は斡旋してもらえると思うよ。」
どうやら彼女は商業ギルドは店を経営する人が登録する場所だと思っていたらしい。
「冒険者ギルド登録と商業ギルド登録の掛け持ちも問題ないから、とりあえず商業ギルドに行ってみようか」
折角なので商業ギルドに案内してあげた。相変わらずここの受付は美人揃いだ。うん、来てよかったな。
ソフィーちゃんはギルド証の発行は問題なく終えた。しかし、問題が発生した。ソフィーちゃん向きの仕事がなかったのだ。丁度、村から若者が街に仕事を求めて出てくる時期を過ぎたところで、完全に就職活動の時期は終わってしまっていた。城壁の補修作業とか土木関係の仕事しかなかった。
商業ギルドを勧めたのは俺なので、これは何とかしてあげないといけないか。
「ちょっと依頼を出してくるよ」
俺は自分のパン屋の従業員の募集依頼を出すことにした。受付の人にも事情を説明して、正式にソフィーちゃんはうちの従業員となった。うん、これで俺もトレーニングに打ち込めるな。
「仕事まで頂いてお世話になってばかりで、本当にありがとうございます。私、がんばりますので!」
「うん、でも仕事探しは続けてね。俺は他の街に行ったりすることもあるから、その間は仕事なくなるし。ずっとこの街にいる気はないからね。」
「えぇー。私、解雇されるんですか・・・」
「うん、そのかわり売上の半分はあげるから。すっごく儲かると思うよ。」
俺は一人旅をしたいのだ。もっとこの世界を見たいのだ。いつまでも雇うことはできない。契約内容もそういう内容にしてある。
翌日、早速今日から売り子をしてもらうことになっている。朝、俺が準備したパンを露店でソフィーちゃんに渡す。隣のいつもの刃物屋さんにソフィーちゃんを紹介して、もしトラブルが起こったら力になってもらえないかとお願いした。もちろん、パンのプレゼントも忘れない。刃物屋さんのおっちゃんは快く引き受けてくれた。
それからはまたトレーニングと狩りの日々が続くのであった。
フィデルさんから呼び出しを受けた。以前、誘われた領都リビアへの出張の同行の件だ。出発の日が決まったということで、詳しい予定を聞いた。
今回の出張はフィデルさんのお店、もといローレンス商会が領都に進出するという目的のためだ。昔から領都に店を構えるのが夢だったらしい。領都に構える店を本社として、今あるレイクスの街の店が支店になるようだ。ちなみにシャンプー・リンスのおかげで領都に進出できたというわけではない。もっと以前から進んでいた話で、既に物件探しも終わっている。今回の出張の目的はフィデルさん一家が住む予定の家と本社の建物の最終チェック、雇用する人員の確保が目的だそうだ。雇用する人材と聞いて俺はソフィーちゃんを雇ってもらえないかなと考えた。ソフィーちゃんはあれからパンの売り子として、すごく頑張ってくれている。毎日数百個のパンを売っていて、売上の半分を給金としているから彼女はウッハウハだろう。しかし、彼女には定職に就いて頂かねばなるまい。いつまでも無限物資頼りでは駄目人間になってしまう。
ということで、ソフィーちゃんを連れてフィデルさんのお店にやってきたのだ。
「ああ!最近うわさのあのパン屋さんですか!あれはルノさんの商品だったんですね!納得しました。」
と、フィデルさんがこちらを物欲しそうな目で見つめてくるので、従業員の方にもどうぞとパンを大量に差し上げた。
そしてソフィーちゃんはローレンス商会に就職することとなった。
翌日には商業ギルドを通して手続きを済ませ、お店に出勤している。
自分が紹介した手前、ちゃんと働けているか気になって様子を見に来たら、何故か店の裏でソフィーちゃんはトレーニングをしていた。何をやっているのだろうか?てっきり、店内に配属になると思っていたのだが。まさか店の警備員じゃないよな?どういう内容で契約をしたのかまでは俺も知らない。まあ、よその店の新人教育に口を出すわけにもいかないのでそっとその場を離れた。がんばれソフィーちゃん。
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