Star ships
汀
episode1 Starships were meant to fly
地球人が宇宙を行き来する。
昔の偉人たちが知恵を結集して作ったちゃっちいスペースシャトルは、何百年って時を経て大きなスターシップに変わって、あっという間に目的の星に着く。
この広い宇宙には、地球人が住める星がたくさん見つかって、夢や希望をもって地球人が移住した。
今のところ、僕が期待するような宇宙人には遭遇してないし、危険な目にあったこともないけど、いつかは会えるんじゃないかって思う。
僕は、移住した地球人のために物資を届ける仕事をしている。
燃料の開発やスターシップの能力が向上したからといっても、1番遠くにいる地球人の星まで最低でも1年はかかる。
僕が乗るのは、貨物船。
乗客なんかいない。
いるとしたら乗組員だけ。
皆とも関係が良好だから、毎日がイージーモードだ。
乗組員は10人。
船長、航海士2人、操舵士2名、機関士2人、船医、司厨長、倉庫長兼事務長。
たった10人で大きなスターシップを動かしている。
スターシップの中は、重力もあるし、空気もあるし、地球にいる時とほとんど変わらない。
休憩中は、ほとんど好きなことをして過ごす。
「ソラ!休憩中?」
食堂の前で今日の定食メニューを見ていたら、船医のミハエルに声をかけられた。
「ミハエルも?」
「船医なんて、何もない限り大体平穏だから」
「航海士だって、座標を合わせて自動操縦にしたらそんなもんだよ。次の寄港地まで、あと4日はかかるし」
他愛もない会話をしながら食堂に入る。
すると、司厨長のジェイクBが在庫表を見ながら険しい顔をして座っていた。
「おつかれさま、ジェイクB」
「どうしたの?怖い顔して」
ジェイクBは眉間にシワを寄せたまま顔を上げる。
「……皆の嗜好品の在庫があわない……」
「嗜好品?」
「お菓子だよ」
ミハエルが僕に耳打ちする。
僕は急に不安になった。
「え?!僕の〝イチゴ味ビスケット〟は?!」
「……ソラ、まだそんなの食べてるの?」
ミハエルが瞬きもせずに僕を見て言う。
ほっといてよ、今の僕にとっては最重要事項だ。
「それは無事」
僕はホッと胸をなでおろす。
「船長のグミとウィルのアーモンドチョコバーが足りない。前の寄港地を過ぎたあたりから変なんだよね」
「ジェイクFには言ってるの?」
「言ってるよ。……言ったらさ……」
「言ったら?」
「宇宙人が入りこんでるかも、って言うんだよ……」
僕は絶句した。
宇宙人って……。
いたらお目にかかりたい、って切望していたけどさ。
そもそも宇宙人って、グミとかアーモンドチョコバーとか、食べるわけ?
「と言うことで、君たちにお願いがあります」
ジェイクBは、立ち上がって僕たちに言った。
「今日の定食のデザートを特別にプリンアラモードにするから、君たち、僕と一緒に倉庫探検に付き合ってください」
……僕とミハエルは、プリンアラモードに目が眩んでしまった。
何も持っていかないわけにもいかず、とりあえず懐中電灯をもって、僕たちは倉庫に向かった。
星から星に運ぶ、いわゆるお客様の大事な荷物が入れてある倉庫。
その一角に、乗組員用の倉庫が併設されている。
倉庫の扉の前には、一足先に倉庫長兼事務長のジェイクFが待っていた。
手には刺股。
……本格的に宇宙人を生け捕るつもりでいる……。
「あのさ、実はジェイクFが犯人でした、ってオチはないの?」
「あのね!僕は倉庫長なの!大事な倉庫の中身が無くなって1番腹が立ってるのは、僕なの!!」
「……ゴメンナサイ」
すごい剣幕のジェイクFを先頭に、僕たちは倉庫に入った。
一定の湿度と温度に保たれた倉庫。
そのかわり、照明は最低限に確保されているせいか薄暗い。
ジェイクFがいう〝宇宙人説〟もあながち間違いではない気がしてくる。
僕はちょっと後悔し始めた。
……ん?
コンテナとコンテナの間を影が動いた。
……気のせいであってほしい。
「……ミハエル、今の見た?」
「何?」
「あのコンテナ見ててよ……ほら!影が動いてる!何かいるよ!」
「あっ!本当だ!」
「どこどこ?!どこだーっ!!」
ジェイクFが刺股を振り回しながら、走って行った。
ジェイクF、刺股は振り回すものじゃないよ。
「僕は右に回るから、ミハエルは左!ソラはジェイクFを追っかけて!」
ジェイクBの的確な指示に、僕は思わず走り出した。
出来ることなら、部屋に帰りたい……。
使命感にかられたジェイクFは、ものすごいスピードで走っていく。
追いつかない。
次の瞬間、僕はコンテナの影からでてきた〝何か〟と派手にぶつかった。
お互いスピードが出てたせいか、結構な衝撃で吹っ飛ばされてしまった。
「〜〜ってぇ!!誰だよ、もう!」
僕は、体を起こしてぶつかった相手を確認した。
……誰?
僕の視線の先には、見たこともない人が、苦痛に顔を歪めて倒れていた。
……すごく線が細い、顔が小さな、キレイな男の子……。
その子は僕に気付いて、大きな瞳で僕を睨みつけてくる。
僕の胸が一瞬、ドッと衝撃を受けた。
そんな顔しなくても……怪しいのは君の方だって。
思わず「大丈夫?」って、声をかけて手を差し伸べてしまった。
その子は僕の手を振り払って、殴りかかってくる。
「ちょっ、ちょっと!待って!落ち着いてってば!」
僕は咄嗟にその子の細い手首を掴んだけど、勢いに押されて防戦一方になってしまった。
手の感触からして……宇宙人ではなさそうだ。
ホッとした瞬間、僕は足が滑って倒れこんでしまった。
「わっ!」
隙をついてその子は、僕に馬乗りになってくる。
ヤバい……!
「はい、そこまで〜」
ジェイクBの声と共に、今まで僕に馬乗りになっていたその子は、ジェイクBとジェイクFによって僕から引き離された。
「ソラ、大丈夫?」
ミハエルが僕を優しく起こしてくれた。
「ありがとう。ミハエル」
ジェイクBとジェイクFに羽交い締めになったその子は、ひとしきり暴れて疲れたのか、あるいは食切れなのか、ふわっと意識を失って倒れてしまった。
「ソラは〝引きが強い〟から、ソラを連れてきたら、絶対捕まえられるって思ってだけど、本当に捕まえられたね」
ジェイクBは冷静に言う。
ジェイクFは、「本当、そう」って頷いている。
……僕は、有能な〝疑似餌〟扱いされていた。
「疲れとストレスと軽い栄養不足かな。ゆっくり睡眠を取ったら、そのうち目覚めるよ」
ミハエルは、医務室でぐっすり寝ている〝侵入者〟の頭を軽く撫でながら言った。
僕はというと、足が滑って倒れたせいで右足を捻挫してしまった。
あまりにもおっちょこちょいすぎて、ウンザリしてしまう。
「部屋まで付き添ってあげようか?」
「もうすぐシフトの時間だし、そろそろブリッジに戻らなきゃ」
「あんまり休めなかったけど、大丈夫?」
「そんなに疲れてないから、大丈夫だよ。ありがとう、ミハエル」
僕は、医務室を出た。
歩くとやっぱりズキズキ痛くて、少し歩いては休み、少し歩いては休みを繰り返していた。
なかなかブリッジにたどり着けない。
早く行かないと。
今シフト中の航海士であるジョーが無言で圧力をかけてくるはずだ。
「ソラ、どうしたの?」
背後から低い声がした。
振り返ると、このスターシップの船長であるダニエルがたっていた。
若いのに優秀な船長だ。
そして……僕の恋人……でもある。
「捻挫しちゃって……」
「この船の中で捻挫する要素って、ある?」
まぁ、そうですよね、あってますよ。
普通にしてたら、捻挫何かしませんよ、本当。
僕は苦笑いをしてしまう。
「まぁ、ソラだったら、あながちなくはない話だね」
ダニエルは肩を僕に貸してくれた。
「我慢しないで、俺を早く呼んでよ」
ダニエルは耳元で僕に囁く。
「聞いたよ?侵入者に押し倒されたんだって?」
「違っ!違うって!宇宙人じゃないって安心して……自分で滑って転んだんだよ……」
自分で自分が恥ずかしくなる。
ダニエルは、イジワルっぽく笑って、僕の耳にキスをした。
僕はビックリして、目を閉じてしまった。
「相変わらず、敏感」
「……ダニエル!」
僕は、シフト5分前にブリッジに到着した。
ジョーは目を丸くして、ダニエルに抱えてられている僕を見た。
「どうしたんですか!?」
「捻挫しちゃって……」
「この船の中で捻挫する要素って、ありますか?」
言うと思ったよ。
ジョーの言動は、たまにダニエルに似ている。
「……早く、交替してよ。ジョー。お腹空いてるんじゃないの?」
ジョーは怪訝な表情浮かべながら、ブリッジをあとにした。
色々ありすぎて、僕は精神的に疲れてしまった。
「ソラもやすんでくれば?足、痛いんでしょ?。
今、自動運転中だし、スターダストの回避くらいは僕だけでも大丈夫だよ」
操舵士のディヴィッドがブリッジの一段低い操舵席から、かわいく上目遣いで僕に声をかけた。
「大丈夫だよ。座ってれば、気にならないし」
「それに俺もつくから、大丈夫だよ」
ダニエルが僕の横に座わりながら言った。
「なんで!?あんまり休憩してないんじゃ……」
「何にもない船内で捻挫しちゃう面白いソラと一緒にいたいし……侵入者の話もじっくり聴きたいしね」
……僕は、上司にも後輩にも〝手がかかる人〟扱いされている。
「そんなにキレイな子だったの!?僕、後で見に行こうかな?」
ディヴィッドが僕の話を聞いて、目をキラキラさせて言った。
侵入者がどうして入ったかどうかじゃなくて、そっちが気になるわけ?
「でも、なんで、船長のグミとウィルのアーモンドチョコバーばっかり食べてたの?
……船長、グミ食べられて、怒ってる?」
ディヴィッドは、恐る恐るダニエルを見る。
「……ちょっとムカついたけど、全部食べられたワケじゃないしね。
それに貨物船のこの船にわざわざ乗り込んでくるくらいだから、よっぽどの理由があるんじゃないかな?」
ダニエルのその言葉で、僕は思い出していた。
僕を睨んでいた、真っ直ぐな瞳。
あの時。
〝絶対、捕まるワケにはいかないんだ!〟って、あの子の心の声が、僕に突き刺さるような感じがして、胸が痛かった。
「ソラ?どうかした?」
ダニエルが僕に肩を回して、覗き込むように言う。
「あ、いや……あの時……あの子の声が聞こえたような気がして……ダニエルの言うとおり、よっぽどな理由があるのかも」
「ソラは感受性が強いからなぁ。そんなに全部拾ってると、体がもたないよ」
そう言って、ダニエルは僕の頭を優しく撫でた。
「あ〝ーっ!!」
突然の叫び声に僕たちはビックリした。
一斉に機関室の方を見る。
僕は、思わず立ち上がった。
「ソラはここにいて!」
ダニエルはそう言うと、コンソールを軽々と飛び越えて、機関室に走った。
……今日は一体なんなんだ。
いつも静かな船内が、心なしかざわざわしている。
突然、機関室のドアが開いた。
機関室の前で、ダニエルの動きが止まる。
中から、機関士のウィルがユラっと出てきた。
顔が怒ってる……。
怒りのあまり、背中から湯気が出てるみたいだった。
ウィルはダニエルを見ると、また叫んだ。
「俺のアーモンドチョコバー!!」
ウィルの絶叫で、ブリッジの空気がビリビリ振動する。
僕は、思わず耳を押さえてしまった。
「ウィル、ちょっと落ち着けって!」
「あ〝ーっ!!」
静止するダニエルをウィルは勢いよく振り払って、ブリッジの出入り口に向かっていく。
「きゃっ!!」
ディヴィッドがかわいく悲鳴をあげて、しゃがみこむ。
僕は思わず、ウィルの前に出て進路を塞いだ。
「ウィル、どこ行くの?」
「どけよ、ソラ!」
「だからウィル、どこに行こうとしてる?」
「俺のアーモンドチョコバー、食ったやつのとこだよ!!だから、どけって!!」
ウィルは僕の肩を掴んで力を込めた。
僕は、ウィルの両肩を掴んで勢いを止める。
「ダメだよ。行かせない」
「一発殴んないと気が済まないんだよ!ソラ!お前どけって!」
「その子を殴っても何にも解決しないよ!
アーモンドチョコバーだって、元には戻んない。
だからウィル、落ち着いて。
……しかも今はシフト中だよ。
ウィルがシフト中に持ち場を離れたら、スターシップは動かなくなっちゃうよ。
……次の寄港地で買ってあげるから、ね、ウィル」
ウィルは、俺を睨んでから視線を落とす。
僕の肩を力強く掴んでいた手をゆっくり離して、機関室に静かに戻っていった。
機関室のドアが、パタンと閉まる。
……一気に力が抜けて、僕はその場にへたり込んでしまった。
ウィル……怖かった……殴られるかと思った。
「ソラ!大丈夫?!」
ダニエルは、僕をゆっくりと立ち上がらせて、優しく椅子に座らせた。
「足、怪我してんのに、無理するなよ……」
心配そうな表情をして、ダニエルは僕に言う。
僕は苦笑いをした。
今日は厄日に違いない。
その後のシフトは何事もなく平穏に過ぎた。
ウィルの騒ぎもなかったかのように、静かだった。
僕はジョーとシフトを交替して、久しぶりにベッドに横になった。
……疲れた。
僕は目を閉じる。
……深い眠気が襲ってきた。
僕は、僕の体にかかる重さと首筋に感じるくすぐったさで目が覚めた。
「……ん……誰?……ダニエル?……」
あまりの眠気に、僕はまだ頭がハッキリしない。
「……ソラ、起きた?」
ダニエルの低い声が聞こえる。
「……まだ……眠いよ……」
「寝てていいよ」
眠気が勝った僕は、夢を見てるかのように安心した気分になっていた。
目が覚めると、横でダニエルが寝ていて。
充分寝た感じがして、頭がスッキリした。
「今、何時?」
ダニエルが眠たそうに目を開ける。
「5時前」
寝ぼけ眼の僕を見て、ダニエルはにっこり笑った。
「僕、ソラが心配なんだけど」
「……どうして?」
「無茶しないで……俺の愛しい人」
ダニエルは僕をぎゅっと抱きしめた。
僕とダニエルは、朝食をとりに食堂に向かう。
ふと、たった10人しかいないこの船で、医務室に人だかりができていた。
「みんな何してるの?」
僕は聞いた。
「侵入者!侵入者が目覚めたの!」
シフトあがりの操舵士・レイが目をキラキラさせて言う。
「めちゃめちゃ顔ちっちゃいんだよ!すんげぇ、キレイなの」
同じくシフトあがりの機関士・カイルが興奮しきった顔をしてさらにたたみかけた。
「やっぱあんなにキレイっておかしいから、宇宙人だと思うんだよね、僕」
「ジェイクF……まだ、そんなこと言ってるの?」
まぁ、僕は十分侵入者を見たし、あんなことがあったから、僕の顔をなんか見たくないくらい嫌われてるだろうし。
僕は、食堂に向かって歩き出す。
「ちょっと!船長!ソラ!ちょうどいいところにきた!ちょっときて!」
ミハエルが医務室から、顔を出して叫んだ。
ミハエルが叫ぶなんてめずらしい。
でも、ミハエル……僕、お腹すいてるんだけど。
ダニエルと僕が医務室に入ると、ミハエルはドアのカーテンをピシャッと閉め、鍵までかけた。
「どうぞ、座って」
僕は椅子に座ると、ベッドの方を見た。
侵入者はベッドの上で、体を起こしていた。
みんながざわつくはずだよ。
本当にキレイな子だなぁ。
ずっと視線を下に向けていたその子は、目線を上げて僕を見る。
すると、大きな瞳から涙がポロポロ流れ落ちる。
……ビックリした……なんで、泣いてるの?
「ひどいことして……ゴメンなさい」
その子は、僕に謝ってきた。
「え?……なに?……君は僕になにも悪いことしてないよ?なんで謝るの?」
「だって!……」
その子は、大きな瞳を悲しそうに見開いた。
「僕のこと気にしてるんだったら、それは違うよ。……勝手にコケたの僕だし……。僕の方こそ、ビックリさせちゃって、ゴメンね」
それは、僕の素直な気持ちだったから、自然に笑顔がでた。
その子は急にベッドから飛び降りると、僕の膝にしがみついて、さらに泣き出した。
「ほんとに……ほんとに、ごめんなさい……」
僕は、どうしていいかわからなくて、その子の背中をさすってあげることしかできなかった。
「僕は、ケントっていいます。
勝手にスターシップに乗り込んじゃって、ごめんなさい」
〝ケント〟と名乗ったそのキレイなコは、落ち着いたら、ポツポツしゃべりだした。
「なんで、この船に乗り込んできたの?」
ダニエルが、優しく聞く。
ケントはちょっとためらってから、口を開いた。
「エターナルに……エターナルに行きたい……から」
エターナルっていったら、地球人がもっとも遠くに住む星だ。
今からまだ半年以上はかかる。
スターシップの燃料の元になる鉱物も採掘されて、今、すごく繁栄度が高い。
地球人なら、一度は憧れる星だ。
「エターナルだったら、定期便もあるんじゃない?」
ミハエルは、不思議そうに言う。
「定期便より貨物船の方が速かったんです!だから、こっそり乗り込んで……」
「で、目的は何?」
ダニエルは少しキツイ口調で言った。
「俺たちの仕事は、お客様と信頼の原則でなりたってるんだよ。乗組員の嗜好品が被害にあったからよかったようなものの、大事な顧客の荷物が被害にあってたら、君、責任もてる?……それくらい、重大な事をしてるんだよ?だから、ちゃんと説明して欲しい……それは、ケント、君の義務だ」
ケントはハッとした顔をして、うつむいた。
「ちゃんと、言おう。ね、ケント」
ミハエルが優しくケントの背中をさすった。
「……姉さん、姉がエターナルに就職して行ったんですが……かれこれ2年間、連絡がないんです。だから心配で!……連絡がなくなる前、僕に言ったんです。〝とっても稼げる話があった〟って。…….姉は僕のたった1人の家族なんです!...,僕は、姉を探しに行かなきゃいけないんです!」
そう言うとケントは、顔を両手で覆ってまた泣き出した。
僕は思わず口を開いた。
「ケントの気持ち……わかる。僕の父親もそんな感じでいなくなったから……父親を探したくて……だから、航海士になったようなものだし。僕は、ケントを助けてあげたいって思うよ」
僕の言葉に、ダニエルもミハエルも納得したように笑ってくれた。
ケントが、涙を流して僕を見ている。
ダニエルが優しくケントに言った。
「船長である俺が特別に、君を、ケントを乗組員として認めよう」
ケントの目が大きく見開いた。
「ただし」
ダニエルは続ける。
「乗組員として認めるかわりに、ちゃんと働いてもらうからな。覚悟しろよ」
ケントからまた涙が溢れた。
「ありがとう……ありがとうございます!船長!」
ダニエル……君は最高の船長だよ。
僕もついついもらい泣きしてしまった。
ダニエルと僕は、ようやく朝ごはんにありつけた。
ジェイクBが侵入者確保のお礼に、僕にみかんゼリーをつけてくれた。
嬉しくて、ついにやけてしまう。
「本当、ソラってすごいな」
ダニエルは僕に向かって言う。
「どうして?」
「侵入者を一発で捕まえてちゃうし、怒り狂ったウィルを止めたでしょ?ケントの気持ちにも寄り添っちゃうし」
「何も考えてないだけだよ」
僕は、恥ずかしくなった。
「それに……」
「それに?」
「さすが俺の恋人だなぁ、って」
「!!……ダニエルっ!!」
……僕はしばらく、恥ずかしくて顔をあげられないでいた。
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