夢語り
鹿海水仙
奈落の底から
海より高い位置に立つ、廃墟と間違われてもおかしくないオンボロの宿にいた。仄暗い、長く続く廊下には忙しなく歩き回る仲居や顔の見えない客がいる。
私を含め、彼らの足元にある床は今にも軋み、崩れそうだった。床の至る所に亀裂が走り出来た隙間があり、そこから覗くのは奈落。恐らく落ちれば海が待ち構えているのだろうが、よほどここは高いのだろう、海の色も音もしなかった。
上を見上げる。組み木天井だが平面はなく、そこには半魚人のような者達がまるで蜘蛛のように組み木の上を移動していた。頭部の真横にギョロギョロした目玉が付いていて、裂けたような大きな口からは小さくギザギザした歯がびっしりと並んでいる。どうやらあの組み木で生活する範囲を区切っているらしい。どことなく半魚人たちは私たちを見下ろし、嘲笑っているようだった。
私は長く続く廊下の先に向かうことにした。床の隙間に気を付けながら先へ進んでいくと、そこにはまるで地下デパートのように店が左手に並ぶ場所へ出てきた。右には窓があり、そこには水平線に沈んでいく太陽が見える。
店に出されている物を眺めて行く。アメリカにありがちな蛍光色のカップケーキばかりが売られていてどうにも食欲はそそられない。私は何も買わずに、来た道を戻ることにした。
その時だった。床が揺れ、至る所に大きな大穴があき始めた。仲居も客も倒れ込みそうになりながら、慌てて逃げ惑っている。天井の上にいる半魚人たちもどこか、恐れているようだった。
大穴の下はやはり、暗闇が広がっている。落ちてしまったらひとたまりもないだろう。そんな暗闇から、何か来る気がした。
それが何かは分からない。ただ何かの気配を感じた。巨大な、恐ろしい何かだと言うことだけは分かった。
「くるぞ、くるぞ」
天井の上にいる半魚人達がそう言っている。やはり、何かがやって来るんだ。
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