18.従業員食堂3

 シフトを終えた夕方、透一は今日もサフィトゥリに会うために従業員食堂へ行った。

 しかし今日は一人で向かっているわけではなく、隣には直樹がいる。親友の美人外国人の彼女が一目見てみたいと、ついてきたのだ。


「俺、本部棟の食堂行くの初めてだわ。大学の学食とどっちが旨い?」

「んん……、揚げ物系は学食の方が旨いけど、麺系はこっちの方が俺は好み」


 透一は本部棟までの道のりを、直樹と雑談をして歩いた。曇りのち雨の天気であったためか、会場内にいる人は少なめだ。


 食堂に入り、先に待っているはずのサフィトゥリを探す。


 するとサフィトゥリは、給湯器付近の席の近くに立って透一に軽く手を振っていた。


 テロリストの可能性が高いと知った結果接し方が不自然になってしまうかもという不安もあったが、まずは普通に手を振り返す。


「こんばんは、透一さん。そちらは……」


 透一が近くに移動すると、サフィトゥリは直樹の方を見た。


 多分問題はないとは考えていたが、直樹がいることを嫌がってなさそうな感触に透一は少しほっとして紹介した。


「こいつは俺の友達で、君に一度会ってみたいって」

「はじめまして。直樹です」


 直樹が普段よりも変にかしこまった日本語で話す。大学にいる女子とは雰囲気の違うサフィトゥリの理知的な美貌に、まじまじと魅入っているようだ。


「透一さんのお友達ですか。私はサフィトゥリです」


 最初に透一と会ったときと同じように、サフィトゥリは綺麗に落ち着いた声で名乗った。


 直樹がなぜ透一のような凡人がサフィトゥリのような超絶した美人と付き合えているのか訝しむ顔をしていたので、透一は軽くサフィトゥリのことを紹介しようとした。


「彼女はドゥアジュタ国の外国館のアテンダントをしていて、それでこの会場を……」


 そのときブレノンから聞かされたサフィトゥリの正体の話が脳裏をよぎり、透一は口を滑らしそうなる。透一は一瞬、言葉に詰まってサフィトゥリの顔を見た。


 そして透一はその目で、すべてを物語ってしまった。


 透一の視線からサフィトゥリは状況を読みとり、透一もまたサフィトゥリの表情から確信する。


 サフィトゥリの少し見開いた瞳は、秘密を見抜かれた者の驚きがあった。

 どうやらサフィトゥリも透一も、隠し事がそこまで得意ではない性分であるらしい。


(やっぱり、サフィトゥリはテロリストだったんだ)


 サフィトゥリは自分がテロを計画していることを透一が知ったことに気付き、透一もまたサフィトゥリがテロを計画しているというブレノンの話が真実であることを理解した。

 そこに予想外はなく、透一はただ納得をするだけである。


 透一は言いかけた言葉を誤魔化して、適当に話をまとめた。


「……この食堂でたまたま出会って、俺から話しかけたんだ」

「お前も勇気があるもんだな」


 何も背景を知らない直樹は、二人の顔色の変化には気づかずに呑気に透一の肩を叩く。


 するとサフィトゥリは瞳の表情を一瞬で和らげて、微笑んだ。


「嬉しかったですよ。透一さんが私に話しかけてくれたこと」


 重大な隠し事をしてはいても、サフィトゥリのその言葉に嘘はなかった。

 つられて透一も、その場に合わせて笑う。


 今までのサフィトゥリは言動も、すべてが嘘や気まぐれではないはずなのだ。

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