義理の妹に一服(惚れ薬)盛られました。おかげで俺の瞳に映る義妹が可愛いすぎて仕方がないです。

深谷花びら大回転

第1話 風呂上がりの麦茶は格別

 織部おりべ一成かずなり、それが俺の名だ。


 偏差値が高くもなければ低くもない、極々普通の高校に通う2年生。運動や勉学に関しても平均という二文字がピッタリな成績で、5段階評価の通知表は毎回オール3だ。


 突出とっしゅつした能力はない。だからといって馬鹿でも運動音痴でもない。自分で言うのもおこがましいが、事実だから仕方がない。オール3が全てを物語っている。


 彼女はいないが友達はいる。学校生活もつまらなくはない。青春というものをそれなりに謳歌おうかしている。一般的な男子高校生だ。


 ……一つだけ、一般的ではない部分がある。それは環境、更に言えば家族だ。


 織部家は父、母、妹、俺の4人家族。だが俺と血が繋がっているのは父しかいない。


 今の母は俺にとって人生で二人目の母であり、その連れ子だった千夏ちかは一つ下の義妹いもうと。当たり前だが同じ血は通ってない。


 義理の妹、と聞いてうらやましがる友達もいる。が、現実とフィクションには埋めようのない差があるわけで、漫画やラノベのように義理の妹と恋に~なんて展開は万が一にも訪れないと断言しよう。


 そうでなくても俺と千夏は片手じゃきかない年数を同じ屋根の下で暮らしてきたんだ。兄妹の絆はあれど、異性として意識したことはお互いにない。


 だから俺はこの手の話題になった時、決まってこう返している。「実の妹だろうが義理の妹だろうが妹であることには変わんねーよ」と。


     ***


 時刻は二十一時。風呂から上がった俺はその足でキッチンに向かい、キンキンに冷えた麦茶をグラスに注ぐ。


「――――プハァ! やっぱ風呂上がりの一杯は最高だな」


 一気に飲み干した俺は空いたグラスを再び麦茶で満たし、ダイニングテーブルへと運んだ。


「ふぅ……」


 椅子に座って天を仰ぐ。程よい疲労感が眠気を促してくる。まぶたを閉じればすぐにでも寝れそうだ。


 ギイィ…………。


 気を遣うように、もしくは気付かれないように、誰かがそーっと扉を開ける音が耳に届いてきた。


 父さんも母さんもこの時間まで働いてることはざらにあるし、そもそもあの二人だったら帰ってきた時点で「ただいま」と口にしている。ということは……。


 俺は背もたれに預けた上体を起こして顔を扉がある方に向けた。


 そこには俺に背を向け扉を静かに閉めようとしている千夏の姿があった。


「なにコソコソしてんだ?」


「――ひゃい⁉」


 肩を跳ねさせ、普段の感じからは想像もつかない可愛い声を漏らした千夏。


 俺に声をかけられるとはつゆほども思っていなかったのだろうか、千夏の驚きっぷりにこっちが驚かされた。


「お、起こしちゃった?」


 恐る恐るといった具合で振り返ってきた千夏に俺は首を横に振って見せる。


「いや、最初から寝てなかった」


「あ、そう。ならいんだけど……」


「悪いな、気を遣わせちゃったみたいで」


「え? あ~別に、そんなんじゃないから」


 さっきの可愛い声の主はどこへやら。いつものツンケンした千夏に戻ってしまった。


「……ほんと紛らわしんだから」


「まるで俺が寝ているのを期待していたかのような口振りだな」


「はぁ? 誰もそんなこと言ってないんですけど」


 向かいに座ったパジャマ姿の千夏は頬杖をついて俺から顔を背ける。


 織部おりべ千夏ちか。俺の義理の妹である。


 歳は一つ下で高校一年の代。成績優秀、スポーツ万能、容姿ようし端麗たんれいと、学校の人気者になる要素を3つも兼ね備えている。まさにハイスペックヒューマン、兄として誇らしい限りである。


 実際に入学してまだ二ヶ月ぐらいしか経っていないのに、千夏は学年内、いや学年の垣根かきねを超えて学校内で知らない者はいないと言っても過言じゃないレベルで有名になってきている。


 だからこそ疑問にも思う。どうして千夏は〝俺と同じ高校〟を選んだのか、と。千夏ならもっと良い高校にいけたはずだし、どこでだってアイドル的存在になれてただろう。なのにどうしてウチの高校を選んだのか。


「…………なに?」


「いや、なんでも」


 ジロジロ見ていたせいか、千夏に横目で睨まれてしまう。


 まぁあれだ、家から近いからとかいう理由だろ。他には校則が他と比べて若干緩かったからとか……髪色明るくなってるし。


 そう勝手に結論付けた俺は、汗が浮かんできたグラスに手を伸ばした。


「――てかさっきから気になってたんだけど……後ろの、なに?」


 グラスを手に取る直前で、千夏が俺の背後に目を向けて言った。


 はて、後ろとな? と俺は振り返って確認するが、特段変わったところはみられなかった。


「なんもなくないか――」


「――ッ⁉」


 俺が向き直ると千夏は慌ただしく椅子に座った。


 座ったということは寸前まで席を立っていたということ。後ろになにもなかったことから察するに、なにかイタズラを仕掛けてきた可能性が高い。そう考えれば、わざわざ俺を振り向かせた理由にも繋がる。


 ……パッと見た感じ形跡はなさそうだ。というか千夏がイタズラなんて幼稚な真似するだろうか? 想像もつかないんだが。


 余所よその兄妹がどんな生活をしているかは知らんが、少なくとも俺と千夏はイタズラをしたりされたりな関係じゃないのは確かだ。なんなら千夏に嫌われてるまである。


 直接本人に訊いた方が早いか。


 俺は「んんッ」と喉の調子を確かめてから、千夏に声をかけた。


「なんもなかったが?」


「うん。ウチの見間違いだったみたい」


「……ひょっとして、なんかした?」


「はぁ?」


「いやだから、イタズラ的なことを」


「ウチが? あんたに?」


 俺が頷くと千夏は呆れたように笑った。


「はっ、意味わかんないし。なんでウチがそんなことしなくちゃならないわけ?」


「だよな……そう、だよな」


 千夏はイタズラなんてする子じゃない。本当に見間違えただけなんだろう。


 考えすぎるのは俺の悪い癖だな。


 機嫌悪そうに口元を尖らせている千夏に、俺は頭を下げた。


「疑うような真似して悪かったな」


「別に。頭がのぼせてんじゃない? 麦茶で冷ました方がいいよ」


「そうかもな」


 千夏のクールな意見を飲み、俺はグラスを手に取る。


 そして口元まで運んでいき、後は流し込むだけというところで俺は手を止めた。


「……………………」


 千夏が食い入るような目でこっちを凝視ぎょうししている。


「あの、まじまじ見つめられながらだと、すごく飲みにくいんだけど」


「は、はぁ⁉ べ、別に見てないしッ! 自意識過剰すぎだしッ!」


 プイッ、と顔を横にやった千夏。俺の目にはどこか焦っていたようにも映ったが、当人は頑なに認めないだろう。


 ……怪しくないと言えば嘘になる。


 俺は一度グラスをテーブルの上に戻して視線を落とした。やはりと言うべきか、おかしな部分はない。


 じゃあなんで、千夏は尚もこっちの様子をうかがってきてるんだ?


 目を向けなくてもわかる。千夏がチラチラと俺に視線を寄越していることに。


 ……いやいや、ついさっき考えすぎるのは自分の悪い癖だって反省したばっかだろ。それに、万が一これがイタズラだったとしても、毒が盛られてるわけじゃあるまいし……考えるだけ損ってやつだ。


 と、俺は半ば開き直るようにしてグラスを再度口元に運び――今度こそ一気にあおった。


――――――――――――


どうも、深谷花です。


見てわかる通り新作でーす。今回こそは運営に警告されないようにしたいと思いまーす。


現場から以上でーす。

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