Episode 95「PV」

 フレアさんから海の制服シリーズを貰い受け、お礼を言った後、私はゲームからログアウトした。

 

 ゲームからログアウトして、時計を見る。

 時刻は11時弱。ゲームを始めたのが9時半辺り。

 

 本当ならもう少しプレイしたかったところだけど、今日の私には用事があるからそれもできない。

 ま、続きは、帰宅後か明日になるかな。

 なんて考えつつ、出掛ける支度を始める。

 まだ外に出るには早い時間だけど、準備は早めにしておくに限る。

 


 お昼ご飯を食べ終え、12半に家を出た。




◇ ◇ ◇




 走るのは天使の少女。

 少女は走り、逃げ、追い、戦い、潜む。

 少女は戦いの中、新たな仲間を増やし、お世辞にも、良いとは言いがたかった戦況を、あっという間に打破してしまった。


 仲間とは、黒竜である。

 天使の少女と、黒竜と、その仲間たち。

 彼女らは黒竜の背にまたがり、百をも越えるであろう迫り来る集団を、瞬く間に粒子へと変えてしまった。



 場面は切り替わる。


 少女は黒竜をその身に纏い、いや、自ら竜となり、仲間を背に乗せ、空を飛び、風を切り、爆風を巻き起こす。

 黒竜が去った地は、跡形も無く破滅した。

 木々は折れ、人々は消え、残るは悲惨な爆破痕だけ。

 しかし、黒竜の下にいて、爆発の被害を受けた者は、誰一人としてその犯人の正体を知らない。

 そうして、黒竜は破壊を繰り返して行く。




◇ ◇ ◇




◇ニューホープ本社◇




「どうかな?」

「どうと言われましても……」


 こういうのを見せられても、反応に困る。

 

「迫力はありましたね。凄かったです」

「ああ、僕も最初見た時は鳥肌が立ったよ。我社の社員は優秀だな」

「ですねぇ」


 反応には困る。だって自分が出演してるんだもん。

 ただ、PV全体の感想を素直に言うのであれば、それは一言、「凄い」だ。

 

 ゲーム内の映像をそのまま使う部分もあれば、加工されていたり、無いはずのシーンをイラストで生み出されていたり。

 映像、アニメ、音楽、技術。

 色々なものが合わさって一つになった結果がこれ。


 凄い。


 序盤は世界観を映し出す。

 少し進めば、ストーリモードでの世界観と、そのモードに出てくるキャラクターのイラスト。


 次はオンラインでのシーン。

 そこでは、町の風景、モンスターとの戦闘シーン。

 そして、チラッと私も見える、イベントでのシーン。

 いや、登場したのはイベントシーンだけで、時間的には割と短かったけど、それはもう凄かった。

 別に私の活躍が凄かったとか言いたいわけではなくて。

 私自身も、そう思わざる得ないような演出が、もう、もう、凄かった。


 特に、第二回イベントのシーン。

 ピンチの私、迫りくる敵。

 その場面では、私の眼をアップにして映したり、私が汗を流したり。

 唾を飲むのを表現したように喉が動いた直後、瞼が閉じられる。

 その演出が、覚悟を表してるんだなってわかった時には、私が一瞬の発光、そして周囲に覇気のような風が巻き起こる。

 そして、一瞬、ほんの一瞬だけ画面が白い光で遮られたその直後、そこには森に響きかせるほど咆える竜。

 ここで音楽がサビに突入。

 

 その後の戦闘シーンは大迫力。

 竜の蹂躙とも言える一方的な攻撃の後、仲間を連れて空に飛び羽ばたく。


 そして、その竜が向かった先。

 行く先にはなんの意味が無いんだけど、そこで竜は遠くへ飛んで、やがて見えなくなる。

 そこでPVが終わる。と思いきや、あれ? 画面が暗くならないよ? と疑問に思う。


 と、その画面の端にある、とある海に視点が向く。

 海の砂浜には、いくつかの小さな人影。

 その人影を映すべく、視点が近づく。

 その影は、水着姿で泳いだり遊んだりする美少女たちだった。

 その数人の中に、浜辺でビーチバレーをする、たくましい体つきの男たちも。

 そして、一人の男によって投げられた球が、視点の方へと飛んできて、画面を暗くする。

 すると、ドンッという効果音と共に、サマーイベント開催、と文字がでかでかと現れる。

 再度画面が暗くなり、動画が終了した。



 なるほど、最後のはイベントの告知というわけだ。


 うん、やっぱり凄い。

 見る人の興味をそそり、戦闘シーンは多少の脚色がありつつもその分大迫力となっている。

 ストーリーモードにも少しだけ注目して、様々な観点からFLOを紹介する。

 そして最後には、既にプレイしてる人も歓喜できるような、情報の解禁、その情報の内容に少し触れている。

 あのシーン。ようは、夏っぽさを演出するためのシーンだったというわけ。次のイベントは夏休み限定イベントですよ~、みたいなね。

 そのシーンだけは、他のと比べてかなり時間が少なくて、視点の動きや切り替わりも早かった。

 これには、何かが起こっている、ではなく、何かが起こる、というイメージがわく。

 う~ん、流石だ……。







 その後、社長と今後のお話をして、FLOのグッズみたいなものまで頂いてしまった。

 ドラコちゃんの人形、クロのキーホルダー、公式ショートストーリー漫画、などなど。


 それと、私のゲームアバターの方にも、アイテムを送っておくと言っていた。

 それは嬉しいんだけど……この間のワッペンみたいなのは嫌ですよ? って、一応言ってみたんだけど、やんわりと話を逸らされた。

 話を逸らした、それすなわち、否定しないということ。

 あ、うん、ダメだ。と察した私。


 だけど、別にあのワッペンは付けなくても良いっぽい。

 形として送っただけあって、むしろあまり付け過ぎても困るとかなんとか。

 それなら送らないでくださいって言おうかと思って、やめた。

 どうせこの会社とは、今後も付き合っていくことになるんだもん。相手の機嫌を損ねる必要は無い。

 BANされたくなんて、ないしね。


 

 そんなこんなで、私はニューホープ本社を後にした。

 ちなみに、PV公開日はイベント開催前日の7月の31日。明々後日だそう。

 というかこの情報、本来は一般プレイヤーである私が知ってても大丈夫なのかな……?

 ま、まあ、誰にも教えなければ問題は無いよね。多分。

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