Episode 81「暁戦線」
◇ギルド『暁戦線』◇
場所は暁戦線の拠点。遠くない場所からは雄叫びが聞こえてくる。
それは、自陣のものでもあり、敵ギルドのものでもある。
ギルド『暁戦線』のリーダー、フロッドは戦況を見渡し、溜息を吐く。
(とりあえずは押し返せそうだ……)
一瞬の安堵。
ただ、それは現在のギルドの状況が良いことにはならない。
この場でこのギルドを生き残せるか。たったそれだけだった。
暁戦線は規模が大きなギルドだ。
故に敵に見つかるのが早かった。
しかし、見つかったからと言ってどこのギルドも暁戦線を攻めようとしたわけじゃない。最初は2パーティーだった。
次第にその2パーティーが5パーティー、8、10へと膨れ上がり、今の状況となった。
来ては返り討ちにし、その繰り返し。
その甲斐あってか、同時に100人などと相対することはなく、いまだ被害は少まで抑えとどめられている。
やはり、ほとんどのギルドは、大規模ギルドである暁戦線を序盤で削っておきたいらしい。
もしかすると落とす気なのかもしれない。
(それでも、追い返すだけだ)
そうすることしかできないとフロッドは考える。
それなのに、攻めてくる敵は、倒しても倒しても、ゲームオーバーになるわけではない。
実際には、計三回倒さなければイベントには残り続ける。
死んでしまうと多少のペナルティーはあるだろうが、それでも大規模ギルドを削るには些細なことだとでも思っているのだろうか。
だからか、倒してもなんの利益も無いと思えば、気持ちがどこまで沈んでいきそうで。
多くのギルドメンバーもそう勘付いていることが問題でもあった。
士気というのは戦場において重宝される。攻略組のフロッドはそれを充分に理解していた。
だからこそ、今この状況に心の底から安堵はできないのだ。
そんな彼へ、一人のプレイヤーが近づいた。
追加情報だ、と告げるそのプレイヤー名は村人A。今イベントでは主に情報収集の役割を担っている。
「ここらずっと東の方の被害が大きい。かなりの上位プレイヤーが暴れてると見た」
「……そうか」
ずっと東。
それがここからは遠いことを理解し、まだ安心だろうとフロッドは力を抜く。
「ここももうすぐ片付きそうだよ」
「らしいな」
二人して戦場を見渡す。
戦場とは言え、ここはゲームの中。何も悲惨な光景が映し出されているわけではない。
それでも、二人は痛そうに目を細める。
そこへ、村人Aと同じく情報収集のマリンが拠点に戻ってきた。
マリンは村人Aを睨み、村人Aは目を合わせず鼻で笑う。
今にも殴り合いに発展しそうな雰囲気だが、村人Aは無言で立ち去った。もう一度情報を集めに行くらしい。
「マリン、もうちょっと仲良くしてくれないかな?」
「はっ、あんなのと仲良くなんてごめんだわ」
フロッドは苦笑する。
以前からマリンと村人Aの仲が良好に見えた時は無かった。
ことあるごとに意見と目線をぶつけ合う。
それでも、今まではそれだけで済んでいたという自覚は毎度仲裁していたフロッドには感じていた。
犬猿仲ではあるが、それは毎度の意見の食い違いによるものから発生し、その度に物事を解決し問題を終わらせることで、二人は自然と言い合いをしなくなる。
ただ、今の状況は違う。
見かけるたびに睨み、罵倒する。特にマリンだ。
この仕打ちには、フロッドは正直、子供っぽさを感じていた。
どうにか仲良くさせることはできないか。
そのために、敵であるツユに相談しようとしたこともあった。
何故ならば、原因の一部、いやほとんどがツユというトッププレイヤーにあるからだ。
そのツユからしたら、全くの冤罪でいい迷惑なのだが。
フロッドはこれに、申し訳ないという気持ちとどうにかしたいという気持ちでここ最近を悶々としている。
フロッドのそんな悩みも露知らず、マリンは淡々と報告をする。
「この周辺ギルド、最初より大分減っているわ。だから相手の援軍の心配も無いわ」
「そうか。それは安心だな」
本音だった。
とりあえずこの場を凌ぎ、なんとかイベント後半までは生き残りたいと考える。
しかし、ポイントも欲しい。
暁戦線は防衛に回り過ぎ、攻めが疎かになっている。
敵が弱っている今の内に攻め込むか。
そして葛藤の結果、フロッドは声を出した。
「今から周辺ギルドを攻め落とす。マリン、伝達と準備を頼む」
「わかったわ」
(今はイベントに専念しよう)
心の内でそう唱え、フロッドは拳を握った。
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