Episode 11「キメラ」

 大きな扉を開き、恐る恐る中に入る。


 全員が通った途端、扉はギギギと音を立てながらゆっくり閉じていく。


 まるでホラーだとか思ったけど、私の前を先導して進む二人に怖がる様子なんて微塵も感じられなかった。


 寧ろ扉が閉じた時、「おぉ、定番だあ」「やっぱりこうでなくちゃね」なんて、よくわからないことを言っていた。私がズレてるのかな……。


 そんなこんなで、扉の先に続く細く暗い道を進むこと約30秒、踊り場のような広い空間に辿りつく。


 これ、絶対になんか出てくるやつだ! でも、二人の嬉しそうな顔を見て、引き返そうと言える勇気を私は持ち合わせていない。


 まだ進む。



 そして、全体が円形になっている空間の中央に来た時、変化が起こった。


 暗くて気付かなかった、空間の周りに設置されたトーチから青いが生まれる。


 私たちが進んで来た道の方から順に、ボッ、ボッ、ボッ、と、辺りを照らす。


 やがて私たちが居る場所まで、全てと思われるトーチに火がともされると同時だった。


 来た道と踊り場が繋がった地点に、退路を塞ぐようにして、天井からモンスターが落ちてきた。


 

「来たわねッ!」

「絶対に倒す!」



 でかい!


 デュラハンはここまで大きくはなかった。


 比べて目の前のボスと思われるモンスターは、尻尾があり、それを含めた全長は10メートルを超えていてもおかしくない。いや、超えている。


 そう、尻尾がある。


 白い毛が生えていて、鶏のようなくちばしはとても大きく、鳥にしては長く太い首、うなじから肩辺りまで生えた赤いたてがみや筋肉の発達した脚は馬のよう。


 そして、緑色の蜥蜴とかげのような太い尻尾が生えている。

 

 なんと言うか……子供がムキムキ、みたいな変な違和感があって、めっちゃ気持ち悪い。


 それなのに二人は、声を飛ばして相手を煽っている。


 

――【キメラ】――

HP「6000」

MP「6000」

SP「6000」

――――――――



 キメラって確か、ライオンと羊と蛇じゃなかったっけ? そんな疑問を浮かべていると、キメラは雄叫びを上げる。


 それを合図に、二人は攻撃を開始した。



「『アローレイン』!」

「『ファイヤーショット』!」


 

 フレアさんは技を使って矢の雨を降らし、レイミーは魔法で火球を出現させ、キメラにダメージを与える。


 技はSPを、魔法はMPを消費する為、杖のように魔法しか使わない武器はともかく、弓でのSPやMPの消費は適度なものとなる、と教えてもらった。


 だからか、フレアさんは技を繰り出すと、しばらくは通常の矢で攻撃している。


 かく言う私は攻撃力が低いので攻撃はしない。


 だからって後ろで『ライフリバース』に専念していたら、本来、後衛の二人にキメラが近付いて攻撃される。


 だから私は、キメラの周りをちょこまかと動いて二人から気を逸らさせる役割。


 

「こっちだあ! ――ぐふッ!?」


 

 勿論、攻撃されたら一瞬で死んでしまう。


 だけどこのローブのおかげで私は死なず、しかもステータスが上昇する。


 なんとも悲しい役割だけど、二人は私と違って20%の確率で死んでしまう。それだけは絶対に阻止したい。



「『フレイムアロー』!」

「『アイスショット』!」

「えーと、鳥さん、だよね? こっちだよ!」



 これはまるで、私だけ仕事してないみたいじゃん。


 間違ってはいないんだけど……。




 戦闘が始まって約五分が経過した。


 キメラのHPは半分を切り、攻撃パターンは変化していた。


 それでも、デュラハンのように、あからさまな変わり方はしなかった。


 変わったところと言えば、赤い鬣が黒くなったことぐらい。


 レイミーいわく、怒り状態に突入したらしい。


 能力面での変化は、攻撃速度と攻撃力が大きく上昇したっぽい。


 それと引き換えなのか、HPの減り具合は増加した。


 

 

 HP残り三割を切ったあたりで、キメラは何度目かの雄叫びをした。


 次の瞬間、麻痺が効いているのか、少しカクついた動きだったけど、勢いよく突進してきた。――壁目掛けて。



「「え?」」



 キメラの嘴は岩壁に刺さり、呻き声を上げながら引き抜こうと暴れている。



「さあ今よ! たたみかけましょう!」

 


 フレアさんはキメラの不可解な行動にも動揺せず――――いや、してやったりみたいな顔をして、技を放った。




◇ ◇ ◇




《プレイヤー『ツユ』がレベル14からレベル17になりました》

《ステータスポイント15を獲得しました》

《『90シルバー』を獲得しました》

《『大きい嘴』を獲得しました》

《宝箱『鉄の宝箱☆3』が出現しました》

《宝箱『鉄の宝箱☆3』が出現しました》

《宝箱『錆びた鉄の宝箱☆3』が出現しました》



「さっきのは、この『幻想弓』のおかげね」



 宝箱に触れながら、思い出して訊く。



「それって、混乱の状態異常ですか?」



――【成功報酬(大成功)】――

・『64シルバー』

・『キメラの分離体』

・『キメラの分離体』

――――――――


《スキル『金の亡者』を獲得しました》



「そうよ。混乱は、その名の通り混乱させるの」



――【成功報酬(大成功)】――

・『(SSR)竜の卵』

――――――――



 あれ、お金が入ってない。今までこんなことあったっけ?



「さっきのはおそらく、壁が私たちに見えて――――……? ねえツユちゃん、お金が入ってないけど……?」


「それに見たことないアイテムだね…………まあ、今更だけど」


「『竜の卵』……見た感じ、竜が生まれるんだろうけど……」


「それって、召喚石みたいな物なのかな?」



「「――って、竜!?」」



 おぉ、見事にハモって――



「ねえ! 竜ってどうゆうこと!?」

「お金が無いのって、まさかこのアイテムがレアすぎるからじゃないわよねえッ!?」



「え? なんですかっ、ちょっとっ、だからっ、肩をっ、揺らさっ、ないでぇっ……!」






――【ツユ】――

・LV「17」

▷MONEY「1,019,530」

――【STATUS】――

・POINT「0」

・HP「170/170」(200)

・MP「170/170」(200)

・SP「170/170」(200)

▷STR「62」(60)

▷VIT「62」(-4434)

▷INT「62」

▷DEX「62」

▷AGI「74」(100)

▷LUK「2272」(50)

――――――――

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