いつか来る夏休みを想う。
普川成人
いつか来る夏休みを想う。その1
「連続殺人犯未だ逃亡中。警察、現場の指紋を鑑定」
スマホを開くと、Yahoo!ニュースの通知が目に入った。気分が悪い。それを閉じ、代わりにTwitterを開く。
「そういえば、そろそろ夏休みですね。メリノさんは、旅行とか行かないんですか?」
Twitter上の友達にダイレクトメールを送る。名前はメリノ、アイコンは可愛い羊の絵だ。
「私は職業がら、皆さんに迷惑をかけるので旅行なんかは無理なんですよ」
メリノさんから返事が返ってくる。彼?彼女?は、いつも世間に対して申し訳なさそうに返事をする。現実で何があったのか知らないが、大変そうだ。こうもっと、はっちゃければいいのにと思う。夏休みなんだから。
「迷惑をかけるって何ですか?」
「私の周りではいつも悲しいことが起こるんです。だから夏休みでもなるべくどこにも行きたくないです」
よく分からない。雨男の概念バージョンなのだろうか?少しうんざりしてきたので、スマホを閉じ、作業に集中する。
さっきまで彼とセックスをしていたのだが、終えてから辺りを見るとひどく汚れている。ラブホテルじゃないので、流石に掃除をしなければならないだろう。彼は今布団にくるまっていた。私一人で綺麗にしないといけない。
床が汚れているので雑巾をかける。なかなか落ちない。掃除の途中でスマホを見ていた自分に呆れる。それにしてもひどい汚れだ。シミが壁にまでくっ付いている。掃除なんて、これまで何回もしているのになかなか難しい。集中、集中。
床掃除を一通り終えた。次にゴミ袋にゴミを入れていく。大きい物は、切って小さくして捨てる。疲れるなあ。少しスマホを見よう。もうほとんど依存症に近いなあと思うが、やめられない。
「bさんは旅行ですか?」
「今伊豆に来てまーす。良いとこですよ。ほらあの湖見えますか?」
私は窓から外の景色を撮って送った。こういうのはヤバいのかなと一瞬思ったが、伊豆と湖だけで場所なんてわからないだろう。それにメリノさんは危険な人ではないと思う。というかもしヤバい人でも、私は日頃体を鍛えているので大丈夫。やはり筋肉は最強の武器なのだ。
掃除がやっと終わった。本当に時間がかかる。あとは、ゴミを捨てにいくだけだ。その前にスマホを開く。再びニュースの通知が来ている。
伊豆@@市死体が発見される。犯人は未だ捕まらず。警察は一連の事件との関係性を調査中。
再び消して、Twitter。
「奇遇ですね。私も今仕事で伊豆にいるんですよ」
「へーそうなんですか。あー、どこかで会います?」
「いや、やめておいた方がいいです。これは自分では制御できないんです」
やっぱりよくわからない人だ。いろんな知識があって会話が面白いのだが、たまに変な話になる。私は彼を連れてゴミ捨て場に行く。ゴミ捨て場は死ぬほど臭い。しかも何かゲロの跡みたいなのがあって汚いし。最悪。部屋でシャワーを浴びることにした。
その時後ろで物音がした。振り返ると、全身が真っ赤に染まっている女性がいた。手にはナイフ。怖い。彼女だけスプラッタ映画の世界で生きているようだ。血で染まった服の、そのデザインはどこかで見たことがあった。
可愛い羊のアイコン。目の前の服のデザイン。
「もしかして、メリノさんですか?」
彼女は、こくりと頷いた。
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