第12話 患者は女子高生

「信頼していただけて、とてもありがたいことです。西洋医薬品ももちろん素晴らしいですが、身体に負担の少ないとされる漢方薬が普及するのはいいことですからね。自然由来ですし、それにうちでしたらその人に合わせて微調整が可能です。よりよい薬を提供できるはずですからね」

 にこにこと笑って法明は、お弁当に入っていたタコさんウインナーを摘まんだ。その顔がとっても幸せそうで、本当に薬剤師という仕事にプライドを持っているんだなと桂花も嬉しくなる。

 しかし、そこまで胸を張れるようになるには、あとどれだけ勉強すればいいのだろう。そんなことを悩んでいると、にこっと微笑んでいる法明と目が合った。

「問診には緒方さんに補助で入ってもらいましょう」

「ええっ」

「大丈夫かよ?」

 驚く桂花と、すかさず失礼なことを言ってくる弓弦。その二人を見比べつつ、法明は大丈夫ですよと笑顔だ。むしろ今回のケースは弓弦に担当させられないとまでいう。

「どうしてだよ」

「それは患者さんが女子高生だからですよ。ですので異性よりも同性、それも年の近い女性が一緒にいた方がいいでしょう」

「ああ」

「なるほど」

 法明の説明に納得してしまう二人は、思わず顔を見合わせていた。そしてぷいっと揃って横を向く。その様子に法明だけでなく円も苦笑していた。

「というわけで、よろしくお願いしますね」

 にこっと笑って法明は午後の方針を決定するのだった。




 午後三時の再開時間から一時間ほど過ぎた頃、その患者がやって来た。近くのお嬢様高校として有名な高校の制服を着た、小柄で可愛らしい女の子だった。長い髪は耳の少し下あたりでツインテールにしていて、より可愛らしい印象を与えている。

今村唯花いまむらゆいかさんですね」

「は、はい」

 体調が悪いことと緊張していることが合わさってか、唯花の顔色は悪かった。そんな唯花の緊張をほぐすようににこにこ顔を作る法明だが、唯花の緊張を和らげることは出来ずにいた。

「緊張せずにというのは無理でしょうが、リラックスは大事ですよ」

さすがにこのままでは話を聞き難いだろうなと思ったが、法明はにこにこした顔を崩さずにいる。さすがは医師から頼りにされる薬剤師。声掛けも適切だ。桂花なんてどう話し掛けていいのか解らずにおろおろしているというのに。

「お話はこちらで伺いますね」

 そして薬局の右隅に作られている相談室へと唯花を誘った。唯花はこくっと頷くと、法明たちに続いてその相談室へと入る。

 その相談室の中はテーブルが一つに椅子が四客。中は淡いピンク色で落ち着いた雰囲気を作り出している。すでにファイルと資料がテーブルの上に載っているが、パソコンはない。相談者の前でパソコンを操作していると、些細な体調の変化に気づき難いからというのが理由だ。カルテはこの薬局でも電子カルテになっているが、それは後で打ち込めばいいと法明は考えているのだ。

「さあ、座ってください。緒方さん、早速ですみませんが温かいお茶を出してあげてください」

「はい」

「あ、あの」

「遠慮なく。無料サービスですから」

 立ったままだったのですぐに出て行こうとした桂花を止めようとした唯花に、法明は大丈夫だからと笑顔のままだ。そう言われては断り難いのだろう。唯花もこくりと頷くだけだった。しかし勧められた席に座った唯花はすぐに下を向いてしまい、何だかここに来たくなかったかのようだ。

「本人の希望じゃないのかなあ」

 病院にしろ薬局にしろ積極的に行きたい場所じゃないし、女子高生が漢方薬を自ら取り入れたいと医者に訴えることは少ないだろう。両親のどちらかが漢方薬に出来ないかと訊ねたと考えるのは素直なことだ。桂花はだからそんな唯花の態度も仕方ないものに思えた。

「さてっと」

 待合室に戻ってお茶の入っている魔法瓶を確認すると、残りが少なくなっていた。営業時間はまだあることを考えると、新しく沸かしたほうがいいだろう。桂花はそう判断すると、すぐに休憩室へと向かった。

 そしてティーパックに小分けに入れてあるお茶っ葉を取り出し、水をたっぷり入れた大きなやかんを備え付けのコンロに置く。煮出すと市販の十六茶のような香りが漂ってくるのだが、今はそれを楽しんでいる場合ではない。唯花に出すお茶は魔法瓶に残っている分を使うことにし、やかんを調剤室にいた弓弦に託すことにする。

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